転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 仕事に身が入らないまま、一週間を過ごし、宮殿に続く坂道をとぼとぼと歩く。
 いつもよりゆっくりとした歩調で門までたどり着くと、ミュゼが朗らかな笑顔で迎えてくれた。

「お帰りなさいませ!」
「うん。ただいま……」
「公女殿下、お疲れさまでした」

 フランツが生真面目な顔で労う横から、ミュゼがにゅっと顔を出す。いきなり視界に桃色の瞳が飛び込み、シャーリィは半歩後ずさった。

「姫様。今日はもうお仕事も終わりですよね?」
「え、ええ」
「これから、ちょっと付き合ってもらってもいいですか?」
「……うん? どこに行くの?」
「うふふ。それは後からのお楽しみです!」

 強引に押し切られ、シャーリィはミュゼの後ろをついていく。代わりの門番は手配していたらしく、途中、年配の騎士とすれ違った。
 楽しそうな雰囲気のミュゼの背中を見ながら、シャーリィは首を傾げる。

(一体どこへ……って、もしかして)

 前を歩く彼女の先には騎士宿舎がある。その予想は合っていたらしく、ミュゼは入り口の扉を開けて左側のホールに向かう。そして、観音開きの扉が開き、誰かのしゃべり声が途端にやむ。
 訪れた静けさを奇妙だと感じつつも中を覗くと、シャーリィは目を瞬いた。

「遅かったな、シャーリィ。待ちくたびれたぞ」

 宿直以外の騎士が勢揃いした中で、部屋の中央にいたテオがどんと胸を張る。

「今夜は俺たちのおごりだ。しっかり食えよ!」
「うちの国の公女様は、贅沢とはほど遠い生活だからな。たまには羽目を外すのも悪くないだろう?」

 テオの横で、クラウスが小さく口角を上げる。
 横並びのテーブルには、晩餐会でしか見ないような豪華な食事が盛り付けてある。

「えっと……今日は何の日だったかしら……?」

 今年の自分の誕生日はもう過ぎた。それとも、自分がうっかり忘れているだけで、何かを祝ってもらえるような特別な日だっただろうか。しかし、まったく身に覚えがない。
 困惑していると、後ろにいたミュゼが歩いてきて、シャーリィに向き直る。