転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 これからの交渉次第だが、貿易赤字の問題は一応、解決の目処は立った。文官たちから報告を聞いたらしい大公夫妻は手放しで喜び、シャーリィも心から安堵した。
 アークロイドに何かお礼をしたいと申し出たところ、考えておく、と言われた以来、音沙汰がない。財政難の貧乏国を救ってくれた英雄は、再び引きこもり生活を始めてしまった。

(食べ物で釣ったら出てきてくれるかしら……)

 失礼なことを思いながら温泉宿のロビーを後にする。外に出ると、竹箒を持って掃除をしていたダリアの背中を見つけた。

「今日はダリアが当番?」

 話しかけると、ピンクブロンドのお団子頭が振り返る。

「……ああ、シャーリィ。奇遇ね。これからツアーの出発?」
「集合時間まで、まだ三十分あるけどね」
「あ、そういえば。トルヴァータ帝国の話、もう聞いた?」

 数秒考えて、首をひねる。

「……何の話?」
「皇位継承権のことよ。次期皇帝にはシリル第三皇子が内定したそうよ」
「え……」

 目の前で突然風船を割られたみたいに唖然とする。ダリアは地面に積み重なった枯れ葉を箒で集めながら、平然と言葉を続ける。

「びっくりよね。今まではカミーユ第一皇子が優勢だったけど、土壇場でひっくり返ったそうよ。これからが楽しみだわ」

 次期皇帝はシリル皇子。
 その名はアークロイドが親しげに言っていた名前で。

(決着、したんだ……)

 いつまでも続くような気がしていたが、呆気なく訪れた終わりにシャーリィは驚きを隠せない。喜ばしいと感じる反面、このときを危惧していた自分に愕然とする。

(どうして……私……)

 じりじりと胸を焼かれるように息苦しい。
 薄く息を吐き出し、シャーリィは表情を取り繕った。

「……今朝の新聞にも載ってなかったはずだけど、どこからそんな話を仕入れてきたの?」
「ふふ。昨夜来たお客さんが記者の方だったの。正式な発表はまだだけど、一番ホットな情報よ。今は水面下で最終調整をしているらしいわ」

 ダリアの言葉が右から左へ抜けていく。
 ガラガラと足場が崩れていくような不安がこみ上げてくる。自分の気持ちを持て余しながら、シャーリィは曖昧に頷いた。