転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 いつの間にか、集まって聞いていた文官たちも大きく頷いている。しきりにメモをしている文官もいた。
 その様子を一瞥し、アークロイドはシャーリィに視線を戻す。

「うちとの交渉には、これを使え」

 そう言いながら、机の端にあった小さな紙片をおもむろに取る。そして、それをテーブルの上に滑らし、シャーリィは折りたたんだ白い紙を拾い上げた。

「……これは?」
「トルヴァータ帝国との契約違反になっている箇所、そして次に交わす新しい契約内容だ。これを武器に交渉しろ。ただし、俺が手助けするのは今回だけだ。次からは自国でどうにかしろ」
「…………」
「それは、まず対等の関係になるための布石だ。ただお願いされただけでは、うちの外交官は相手しない。俺が介入する以上、このまま泣き寝入りするような真似はさせない」

 これ以上にないくらい頼もしい言葉が聞こえてきて、シャーリィは言葉に詰まった。
 一体、この恩を返すために、自分は何ができるだろうか。このちっぽけな小国の公女ができることなんて、たかが知れている。

(こんなの、一生かけても返せない……)

 絶句するシャーリィを置いて、話は次の段階に進んでいく。

「次は輸入品だが、他国ならもっと安く仕入れられるものもあるぞ。例えば、ルルツェッタ王国のジャクシーナ地方は染め物工場ができたから、そこと取り引きすれば、金額が桁で違うはずだ。今なら他国からの認知も少ないし、何より物価が安いからな。魚はトルヴァータ帝国のままでよいが、野菜や果物はマリーント自治州なら今より安く仕入れられる。あそこは関税がないしな。とはいえ、野菜は自給自足できるようになるのが一番だが……」
「マリーント自治州は以前、取り引きを持ちかけて断られた経験がございます」

 文官の一人が進み出て、申し訳なさそうに言う。
 アークロイドは紅茶を一口飲み、長い足を組み直した。