転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 ない知恵を絞って再提出した企画がとりあえず受理され、シャーリィは宮殿の食堂を後にするアークロイドの姿を見つけた。

「アークロイド様!」
「……シャーリィか。朝見たときより、疲れた顔をしているな。しっかり食べろ。温泉宿の料理も美味だが、宮殿の料理も悪くない」
「お気に召したいただけたようで何よりです。私は今から食べるところですが、その、進捗はいかがですか?」
「悪くはない。用が終わったら、君も来るといい」

 まだやることがあるらしく、アークロイドたちは急ぎ足で立ち去っていく。取り残されたシャーリィは厨房を覗き、軽食を用意してもらった。
 サンドイッチを手早く食べ、応接室のドアを軽く叩く。ドアを開けると、朝と違って文官たちが忙しなくペンを動かし、客間というより職場の雰囲気を醸し出している。
 呆気にとられる中、シャーリィに気づいたアークロイドが顔を上げた。

「ちょうどいいところに来たな」
「と言いますと?」

 向かい側の席に座ると、アークロイドが持っていた書類をテーブルに置いた。

「まだ全部は読んでいないが、いろいろ改善点は見つけた」
「本当ですか!?」
「あ、ああ。だが問題がすぐに解決するわけではないぞ」
「わかってます! でも、その改善をすれば、少しは違ってくるってことですよね?」
「……そのとおりだ」

 期待に満ちた瞳を向けると、アークロイドは気まずさを紛らわすように咳払いをした。

「ひとつは関税だ。周辺諸国と比べて割高に設定されている。これは推測だが、立場が弱いことを利用されて、ふっかけられたんだろう。しかも、税率は数百年前から固定だ。これでは時代に合っていない。この税率を適切にすれば、輸出品が売れやすくなるはずだ」

 周辺諸国の税率を知っていることに、まず驚く。

(すごい……さすが海の大国の皇族。情報量がうちとは比べものにならない)

 税率がずっと同じことに疑問を抱き、輸出の不利を指摘する手腕は見事だ。シャーリィには同じ真似はできない。世界の情勢を考えられる視野の広さに息を呑む。
 シャーリィは衝撃に近い感動をやり過ごし、おそるおそる右手を挙げた。

「立場は弱いままなんですが、どうすれば税率を低くしてもらえるでしょうか?」
「交渉次第だな。外交の交渉役は、大公妃が管轄だったか。手っ取り早く要求を飲ませたいなら、弱みを握ることが簡単だが……」
「うわあ、あくどいですね」

 思わずもれたつぶやきに、アークロイドは悪い笑みを浮かべた。

「何かを成し遂げるには犠牲はつきものだ」
「なるほど……アークロイド様が言うと説得力が違います」