転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 宮殿の東の端に位置する観光課。あまり広くない部屋に人数分の机が並び、ほとんどがツアーで出払っている。今、部屋にいるのはクラウスとシャーリィの二人だけだ。
 ホワイトボードを睨み、来月のスケジュールをいかにうまく効率よく回せるか、脳内で計画を算段する。予定されていたツアーの書類と地図を机の上に広げ、担当区分をチェックしていく。

「……シャーリィ」

 重いため息とともに名を呼ばれたので、書類整理していた手を止めて、さっと上司の席に顔を出す。

「お呼びですか、クラウス長官」

 キリリと表情を取り繕ったシャーリィに対し、クラウスは眉をひそめた。彼は持っていた書類の束を机に放る。

「この企画はなんだ」
「海外から有名パティシエを招いた、世界各国の美味しいもの大試食会ですが……」
「では聞くが、どこにそんな予算がある? うちは貧乏小国だぞ。こんな企画通すわけないだろう!」

 クラウスの雷が落ち、反射的にシャーリィは身をすくめた。しかし、ここで反論しなければ、ただ罵倒されるだけで終わってしまう。

「で、でも夢を見るぐらい、いいじゃないですか。だって興味があります!」
「これは仕事だ。私情を挟むんじゃない」
「……疲れたときは甘いものが食べたくなるのが人の心です……」
「わかった。要するに、残業で頭が回っていない状態で出した企画だということだな?」
「……長官は見ていたようにおっしゃるのですね」
「想像するまでもない」

 ふんと鼻で笑われ、シャーリィは口を噤んだ。
 ヘタな言い訳は自滅を意味する。困ったときは発言を慎むべきだ。

「とにかく、企画書は再提出だ。期限は今日中。次にこんなふざけた企画を出したときは……わかっているな?」
「は、はいっ……肝に銘じます!」

 自分の机に戻り、筆記用具を取り出して企画書の練り直しだ。アークロイドは今頃どうしているだろうか。

(でも今は、他人の心配している場合じゃないのよね……)

 クラウスから余計なことを考えるなオーラが出ている。今は逆らうべきじゃない。まずは頭を空っぽにし、今度は実現可能な企画を考えなければならない。