転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 宮殿の門の前に立っていると、坂の下からアークロイドの姿が見えた。ミュゼと雑談をして待っていたシャーリィは口を閉じ、異国の皇子一行を迎える。

「お待ちしておりました。アークロイド様」

 フランツが門扉を開け、客人を出迎える。アークロイドの後ろをルースが付き従う。彼らを伴い、シャーリィは応接室へ向かった。
 応接室の前には年配のメイドが待っており、シャーリィが小さく頷くとドアが開かれる。
 アークロイドには奥の席を勧め、メイドにお茶の手配をお願いする。彼女が一礼して出て行く姿を見送った後、アークロイドが口火を切った。

「それで? わざわざ宮殿に呼び出すということは、トルヴァータ帝国にまつわることだろう。何が起きた?」

 神妙な顔で腕を組み、こちらの様子を窺っている。

(さすがに隠し事はできないか……)

 世間話から始めようと思っていたが、予定変更だ。どのみち、言わなければならなかったのだ。伝えるべきことは早いほうがいい。

「察しが早くて助かります。単刀直入に言いますね。うち、貿易赤字なんだそうです」
「は?」
「で、ですから……輸出量に対して、輸入量が上回っている状態でして。きわめて赤字なんです。大公夫妻が揃って嘆くほどに」
「……そ、そうか。それは……大変だな」

 公女でさえ、あくせく働く様子をよく知るアークロイドは曖昧に頷いた。いつもは我関せずで護衛の業務に集中しているルースがちらりとシャーリィを見やる。気のせいでなければ、気遣うような視線を受けた気がする。
 ルースを盗み見るようにすると、三白眼が案じるように細められる。

(ルース様に心配されるほど、私の顔ってひどいのかしら……)

 一抹の不安を抱きながらも、シャーリィはありのままの言葉を伝えた。

「アークロイド様に泣きついても仕方ないと思うのですが、どうにかできませんか?」
「どうにかと言われても、俺にそんな権限はないぞ。諦めろ」
「そこをなんとか」
「……力になってやりたいが、こればかりはな……。他のことならまだしも、貿易の問題は俺の管轄じゃない」