転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 隣国から皇子が来てから早一週間。最初は二人揃って、おろおろと館内を歩いていたが、今では自国のように悠々と振る舞っている。ツアーには参加せず、城下街に下りてみたり、部屋で読書などをしたりしているらしい。

(郷土料理が出た日はよほど口に合ったのか、料理長をべた褒めしていたらしいし、他の従業員とも挨拶をする仲になったみたいだし。いい兆候ね)

 大量の洗濯を終え、あとは干すだけだ。川から腰を上げ、絞ったシーツの山を載せたカゴを両手で運ぶ。この仕事をするようになってから、自然と腕力もついてきた。
 優雅なお茶会や刺繍に明け暮れるお姫様は、この国には不要だ。何でもできるバイタリティーこそが必要だ。

(前世の記憶が戻ったときは混乱しちゃったけど、今の人生も悪くないわよね。だって必要とされているのが実感できるもの)

 テレオペレーターはいくらでも代わりがいる。しかし、シャーリィの代わりはいない。
 やりがいがあるから、頑張れる。頑張ったぶんだけ、皆が褒めてくれる。
 大きなシーツを竿にひっかけ、皺を伸ばす。だが量が多いため、いくらやってもシーツの山は崩れない。

「……何をやっているんだ?」

 ぶっきらぼうな声に振り返ると、簡素な館内用の服に身を包んだアークロイドがいた。朝風呂からの帰りかもしれない。

「何って、見てのとおりです。シーツを干しているんですよ」
「……さっきから減っていないように見えるが?」
「それだけ量が多いんです。っていうか、なんで裏口にいるんです?」
「散歩をしていただけだ」

 従業員しか通らないような道を歩いていたとは、よほど暇だと見える。

「暇なら手伝ってください。こっちは猫の手も借りたいぐらいなんですよ。お礼にデザートをサービスしますから」

 だめ元で言ってみると、いいぞ、と言葉が返る。冗談だと言おうとした口が半開きで固まる。驚くシャーリィをよそに、アークロイドは腰をかがめてカゴからシーツを取り出し、物干し竿の向こう側に放り投げる。
 そして、見よう見まねで端と端を引っ張って、パンパンと皺を伸ばす。

「……え」
「なんだ。皺を伸ばせばいいんだろ?」
「いや、そうじゃなくて。……どうして手伝ってくれるんですか?」