転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 オレールが帰国して数週間が経った頃、一通の手紙がシャーリィの元に届いた。
 忙しさにかまけて仕事場に持ってきてしまったそれを開封し、几帳面な文字で綴られた文面を見て、あら、と声をもらす。
 すると、同じ部屋にいたクラウスが声をかけてきた。

「シャーリィ、どうした?」
「……いえ、オレール様からお手紙をいただいたんですが、しばらくこちらに来られないそうです」

 報告すると、数秒の間を置いてクラウスが思い出したように言った。

「オレールというと、君のツアーを気に入っていた貴族か。実家で何かあったのか?」
「ええ。歳の離れた嫡男の方に不幸があったみたいで、急な相続でいろいろと大変らしいです。落ち着いてからいらっしゃると書かれています」
「……そうか。それなら、当分は無理だろうな」
「固定客がいらっしゃらないと、さびしいですよね」

 彼は、定期的に訪問してくれていたリピーター客だった。しかし、実家の事情が事情なので、こればかりは致し方ないだろう。本人も気落ちしているようで、ずいぶんと悲観的な言葉が綴られていた。

(励ましの返事を書かないと……)

 何の準備もない状態から引き継がなければならないので、今頃てんやわんやだろう。彼の気持ちが少しでも楽になるように、心をこめて書かなければならない。
 クラウスは机の書類をトントンと並べながら、ふと壁時計を見て眉をひそめた。

「そういえば、シャーリィ。そろそろ水やりに戻る時間じゃなかったか?」
「わあ、そうでした! すぐに戻ります!」

 急いで観光課を後にし、自室のバルコニーへ向かう。だが、夕方の水やりに来たシャーリィは小さく悲鳴を上げた。

「うそっ!?」

 朝は元気に咲いていたはずの薄紫の花が、土の上にぽとり転がっている。無事花がついたから今度は実がつくものと悠長に構えていたのに、これはどうしたことか。

(何がマズかったのかしら……! 水やりしすぎた? 肥料が足りない?)

 花がなくなったナスの葉は元気に生い茂っている。見たところ、何か問題があるようには見えない。厚みのある葉を見る限り、肥料が足りない様子もないし、虫に食われた様子もない。
 ひたすら首をひねるが、何が原因か、まったく思いつかない。

(ナスって……難しい……!)

 新たな難問を前にして、シャーリィは途方に暮れた。