転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 夏空を彩るのは綿菓子のような白い雲。じりじりと照りつける日差しは容赦なく降り注ぎ、冬の女神が愛しくなる季節でもある。

(でも前世の日本と違って、ここの夏はカラッとした暑さなのよね……)

 暑いことには変わりないが、蒸したような夏ではないぶん、過ごしやすさが違う。気温上昇も酷暑というほど際立ってはおらず、充分我慢できる気温だ。

「もうお帰りだなんて、またさびしくなりますね」

 あっという間の一週間を終え、温泉宿の入り口でシャーリィは眉尻を下げた。
 馬車の前に立っていたオレールは大事な取り引きを逃したように肩を落としていたが、気を取り直したのか、すっと背中を伸ばした。

「……今回こそはと思いましたが、僕は諦めません。また来ますので、どうか忘れないでください」

 何のことだろうと思ったが、シャーリィは接客スマイルで返す。

「オレール様を忘れるなんて、あり得ないことです。またのお越しを従業員一同、お待ちしております」
「シャーリィ姫もどうぞお元気で」
「ありがとうございます。オレール様と再び会える日を楽しみにしておりますね」

 馬車が動き出し、窓からオレールが顔を見せる。シャーリィが手を振ると、名残惜しげに白い手がひらひらと手を振り返してくれる。

(ああ、私の天使……つかの間の別れね)

 馬車がどんどん小さくなっていく。とうとう見えなくなり、シャーリィは踵を返した。
 いつまでも感傷に浸ってはいられない。やるべき仕事は山積みなのだ。