転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 先週に手配していた自分を褒めてあげたい。シャーリィを釣る餌の準備を終え、そのときを待つ。
 やがて、部屋に設置された呼び鈴が鳴り、来訪者が姿を現す。

「お呼びと伺い、参りました」

 シャーリィは膝下の白のワンピースをつまんで、トルヴァータ帝国式の礼を取る。アークロイドはルースに目配せし、朝に届いたばかりの鉢と苗を持ってきてもらう。

「……これは?」
「ミニトマトは順調だと聞いた。ならば、新しいものに挑戦してもいい頃合いだろう」
「やっぱり、アークロイド様は神の使いだったんですね!? ちょうど、他の野菜も栽培してみたいと思っていたところでした」

 予想以上の食いつきだ。興奮した様子で、新しい苗をさまざまな角度から眺めている。

「で、これは何の野菜なんでしょう……?」
「ナスの苗だ」
「ほほう、ナスですか。なるほど、なるほど」
「水ナスだそうだ。実がつくのが少し難しいらしいが、味はなかなか美味らしい」
「それは腕の見せどころですね。……栽培したことはありませんけど」

 難問にぶちあたったように渋い顔で顎に手を当てているが、エメラルドの瞳はきらきらと輝いている。どうやって実をつけようかと悩んでいる顔だ。
 アークロイドは自分の世界に入っているシャーリィを見つめた。

「シャーリィ。……その、なんだ。オレールのことだが」

 オレールの名を出したことで、シャーリィがふっと微笑む。それから同士を見つけたように、アークロイドに詰め寄った。

「可愛らしいですよね。いつも一輪の花を携えて、まるで子犬のように懐いてくださっていて、弟がいたらこんな感じかなと思います」
「……弟……」
「はい。成人されたといっても、見た目は十五、六ですし。私が守ってあげなくちゃ! という気になってしまいます」

 無意識に力んでいた体から力が抜けた。

(俺は……弟のように思われている男に嫉妬していたのか)

 さんざんシャーリィを子ども扱いしておいて、自分がこんなことで心を揺さぶられる羽目になるなんて、我ながら情けない。

(まさか、ライバルにもならなかったか……)

 オレールに同情してしまう。あんなに真摯に思いを告げているのにまったく伝わらず、挙げ句、弟のように思われるとは。
 だが、それなら好都合だ。直接手を下すまでもない。
 このときの判断が誤りだと気づいたのは数日後のことだった。