信じられない、といった風に硬直するアークロイドに、シャーリィは淡々と述べる。
「朝食と夕食はバイキング方式です。芙蓉の間にお越しください。昼食時、飲み物や軽食が必要でしたら食堂にいる料理人にご注文ください。その場でご用意いたします。温泉は朝の六時から夜の十一時まででございます」
「…………」
「以上のことは、部屋に備え付けのパンフレットにも書いてあります。注意事項もありますので、一度お目通しくださいませ。何かご用がありましたら、直接フロントまでお越しください」
では、と一礼して踵を返すと、焦ったような声が届く。
「待て。君は俺たちを放っておくつもりか?」
「ツアーのお申し込みでしたら、フロントにその旨をお申し出ください。その日に空きがあれば当日でも参加できます。オプションの料金は、追加で請求させていただきます」
あくまで丁寧に答えたつもりだったが、アークロイドの顔は晴れない。むしろ、どんどん険しくなっていくばかりだ。
彼は何かを言おうとした口を閉じ、額に手を当てた。
「……君は普段どこにいる?」
「各種手配、明日のツアーの準備など、もろもろ雑務がありますので、一箇所に留まることはありません。要望、苦情はフロントにお願いいたします」
「つまり、俺たちは放置されるわけか」
声には絶望したような響きがあったが、シャーリィは気に留めない。
長期滞在の表向きな理由は療養だったはずだ。見たところ、健康は問題なさそうだし、余計な干渉は不要だろう。
二人だけの訪問だったのがいい証拠だ。
彼らに必要なのは、自由に過ごせる場所。そして、この場所を選んだのは彼らだ。
「この国では、誰の目を気にすることなく、ご自由におくつろぎいただけます。もちろん、他のお客様のご迷惑にならない範囲でですが。わたくしもこの後の予定が押しておりますので、これで失礼いたします」
これ以上引き留められないよう、早足で退室する。ぱたんとドアが閉まり、シャーリィは腕時計の針を確認する。
(思ったより、手間取っちゃったわ。急がなきゃ!)
やることは山のようにある。人手不足は少子化の影響もあるが、弱音を吐いてばかりいても問題は何も解決しない。
アークロイドたちは上客には違いないが、特別扱いはするつもりはない。あくまで彼は温泉宿の客であり、国賓ではない。ならば、通常通りの接客で我慢してもらうしかない。
はじめは戸惑うことも多いだろうが、そのうち慣れるだろう。慣れてもらわなければ困る。これが弱小国のルールなのだから。
「朝食と夕食はバイキング方式です。芙蓉の間にお越しください。昼食時、飲み物や軽食が必要でしたら食堂にいる料理人にご注文ください。その場でご用意いたします。温泉は朝の六時から夜の十一時まででございます」
「…………」
「以上のことは、部屋に備え付けのパンフレットにも書いてあります。注意事項もありますので、一度お目通しくださいませ。何かご用がありましたら、直接フロントまでお越しください」
では、と一礼して踵を返すと、焦ったような声が届く。
「待て。君は俺たちを放っておくつもりか?」
「ツアーのお申し込みでしたら、フロントにその旨をお申し出ください。その日に空きがあれば当日でも参加できます。オプションの料金は、追加で請求させていただきます」
あくまで丁寧に答えたつもりだったが、アークロイドの顔は晴れない。むしろ、どんどん険しくなっていくばかりだ。
彼は何かを言おうとした口を閉じ、額に手を当てた。
「……君は普段どこにいる?」
「各種手配、明日のツアーの準備など、もろもろ雑務がありますので、一箇所に留まることはありません。要望、苦情はフロントにお願いいたします」
「つまり、俺たちは放置されるわけか」
声には絶望したような響きがあったが、シャーリィは気に留めない。
長期滞在の表向きな理由は療養だったはずだ。見たところ、健康は問題なさそうだし、余計な干渉は不要だろう。
二人だけの訪問だったのがいい証拠だ。
彼らに必要なのは、自由に過ごせる場所。そして、この場所を選んだのは彼らだ。
「この国では、誰の目を気にすることなく、ご自由におくつろぎいただけます。もちろん、他のお客様のご迷惑にならない範囲でですが。わたくしもこの後の予定が押しておりますので、これで失礼いたします」
これ以上引き留められないよう、早足で退室する。ぱたんとドアが閉まり、シャーリィは腕時計の針を確認する。
(思ったより、手間取っちゃったわ。急がなきゃ!)
やることは山のようにある。人手不足は少子化の影響もあるが、弱音を吐いてばかりいても問題は何も解決しない。
アークロイドたちは上客には違いないが、特別扱いはするつもりはない。あくまで彼は温泉宿の客であり、国賓ではない。ならば、通常通りの接客で我慢してもらうしかない。
はじめは戸惑うことも多いだろうが、そのうち慣れるだろう。慣れてもらわなければ困る。これが弱小国のルールなのだから。



