転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 どうやら、トルヴァータ帝国からの若い客は一週間滞在するらしい。

(オレール・ベルトランか……春にアカデミーを卒業し、実家の商家の手伝いをしていると報告にあったが……)

 彼の好意はあまりにもわかりやすい。
 しかし、その恋心を向けられているはずのシャーリィには、一ミリも届いていないようだが。笑顔で接する態度から見ても、社交辞令だと思って受け流している可能性が高い。

(一輪の花言葉は「あなたこそが運命の相手」。ひまわりは「あなたは素晴らしい」「あなたを見つめる」だったか)

 鈍感にもほどがあると言いたい。なぜ気づかないのか、と問い詰めたくなる。
 けれども、それはアークロイドが言うべきことではない。他人の恋を手助けする理由は自分にはない。シャーリィが気づかないなら、そのままにしておくほうがいい。

(何を……焦っているんだ)

 彼女が誰のものになっても、アークロイドには関係ない。そのはずなのに、心に闇が巣くったようにモヤモヤした気持ちが広がる。
 自分の気持ちなのに、うまく制御ができない。
 母国では政変に巻き込まれないように、表情を表に出さないように努めていたのに、ここでは簡単に素の自分が出てしまう。
 孤軍奮闘しているシャーリィを見ていると、なぜか放っておけないのだ。
 いつもなら見て見ぬふりをするのに、気づけば手が出てしまう。自分には関係ないと捨て置けばいいのに、つい関わりを持ってしまう。
 食後のコーヒーをルースが持ってきて、コーヒーカップの取っ手に指を添える。

(俺はどうしたいんだ……)

 自分に問いかけるが、答えはなかなか出てこない。
 そんな自分を嘲笑うように、軽やかな声が耳に滑り込んでくる。

「ここで会えたのも何かの運命かもしれませんね」