アークロイドが別館に滞在するようになって、早三ヶ月が過ぎた。ミニトマトの収穫は好調だ。防鳥対策のおかげもあり、鳥の被害もなく、すくすくと育っている。
 ここ最近の変化といえば、アークロイドが他のツアーにも参加するようになったことだろうか。ルースとともに、小規模のツアーに申し込むことが多くなった。

(はじめは引きこもってばかりいたけど、最近は宿以外の温泉も堪能しているらしいし、これで安心だわ)

 顧客満足度は高いに越したことはない。

(……と、噂をすればなんとやらね)

 温泉宿の入り口で花壇の手入れをしていたシャーリィは腰を上げる。花壇は数日前に整備したばかりで、鈴なりに咲く白い花――夜の花を植えている。夜は月明かりの下、淡く光り出し、宿泊客からも好評だ。
 シャーリィが気づいたように、太鼓橋を横切って歩いてくる彼らも気づいたらしく、ふと目が合う。

「アークロイド様。お久しぶりです」
「……ああ、久しいな。息災だったか」
「このとおり、元気でやっています。そちらは温泉めぐりですか?」

 アークロイドの手の中には、近所のお土産屋で買ったものと思われるレファンヌ公国の紋章入りタオルが抱きかかえられている。

「宿の露天風呂もよいが、たまには外の温泉をめぐるのも悪くない」
「お気に召していただけて何よりです」

 彼の後ろに従うルースの顔もほかほかだ。主と一緒に長風呂を堪能してきたのかもしれない。すっかり公国に馴染んだ様子で、シャーリィは感慨深くなる。

「そういえば、ミニトマトはたくさん収穫できているようだな。この前、料理長経由で食べたが、やはり輸入品とは違うな」

 バルコニーで収穫した野菜は、温泉宿に持っていっている。ただ量産はできないので、他の客には出さず、シャーリィとアークロイド、ルースの三人のみに振る舞うようにお願いしてあるのだ。
 シャーリィはふふふ、と人差し指を左右に振る。

「二本仕立てにしたんです! 二つの茎から実がつくので、今も収穫待ちの実がなっていますよ。冷やすとまた格別ですよね」
「ああ、一度食べたらやめられないな。食べられないと、あの新鮮さが恋しくなる」
「同じ気持ちで嬉しいです」