視線を前に転じると、温泉宿の入り口に馬車が横付けされていた。馬車から上品に降りた男は首筋まで伸びた藍色の髪をしており、シャーリィは反射的に足を止めた。
馬車二台分の距離があったはずなのに、導かれるようにしてアークロイドがこちらを見る。そして目が合ったと思ったときには、彼はずんずんとこちらに歩いてくる。
手を伸ばせば届くほどの距離で足が止まり、前から威圧感が放たれる。
「こんなところに出てきて、何を考えているんだ」
「だ……だって……心配だったんです」
「顔色は朝よりマシのようだが、俺がいない間はしっかり寝たのか?」
「寝ました。薬も飲んで、気分はだいぶスッキリしています」
萎縮しそうになりながらも、何とか口を動かして答えると、アークロイドが薄く口を開く。だが新たな言葉が飛び出すよりより早く、第三者の声が会話を割って入る。
「あら、イケメンのお兄さん。臨時のガイド役だなんて言っていたけど、今日は楽しませてもらったわ」
「ねー。説明もわかりやすかったし、目つきが鋭いお兄さんはお年寄りにも親切だったし。ファンになっちゃったわ」
年配の二人組が楽しげに言うと、アークロイドが彼女らに向かって一礼する。
「またのご参加をお待ちしております」
仲のいい二人組はまんざらでもない表情を浮かべ、またね、と言って立ち去っていく。
帰っていく客とアークロイドを見比べることしかできないシャーリィに、自信に満ちた声がかかる。
「どうだ。俺の評価は」
ぐぐぐ……と唸り声をあげたくなる。
(まさか、私よりも人気になっているなんて……そんなの、嘘よ……)
もしかして、クラウスはこの展開を予想していたというのか。あり得ない。今日の助っ人は突発的な出来事だったはずだ。事前準備も心構えもできなかったはずなのに。
しかし、先ほどの客の反応を見る限り、誠実な対応をしてくれたようだ。本音を言えば、心底悔しい。でも自分が今、すべき行動はもう決まっている。
「百点満点です。どうもありがとうございました」
頭を下げて感謝を伝えると、アークロイドが首筋に手を当てる。気のせいか、少し耳が赤い気がする。
「……宮殿まで送る」
「え、本当に大丈夫ですよ。ミュゼもいるし」
ミュゼは気を利かして、遠くの噴水のところで待ってくれている。
護衛騎士がいることを視線で知らせるが、なぜかアークロイドは首を横に振った。
「病み上がりは口答えしない。おとなしく歩け。それともおぶってやろうか?」
「それは断固遠慮します」
「元気があるようで何よりだ。さあ、帰るぞ」
恥ずかしさを隠すように早口で言われるまま、宮殿の坂道をのぼる。後ろではミュゼが微笑みながらついてきてくれていた。
馬車二台分の距離があったはずなのに、導かれるようにしてアークロイドがこちらを見る。そして目が合ったと思ったときには、彼はずんずんとこちらに歩いてくる。
手を伸ばせば届くほどの距離で足が止まり、前から威圧感が放たれる。
「こんなところに出てきて、何を考えているんだ」
「だ……だって……心配だったんです」
「顔色は朝よりマシのようだが、俺がいない間はしっかり寝たのか?」
「寝ました。薬も飲んで、気分はだいぶスッキリしています」
萎縮しそうになりながらも、何とか口を動かして答えると、アークロイドが薄く口を開く。だが新たな言葉が飛び出すよりより早く、第三者の声が会話を割って入る。
「あら、イケメンのお兄さん。臨時のガイド役だなんて言っていたけど、今日は楽しませてもらったわ」
「ねー。説明もわかりやすかったし、目つきが鋭いお兄さんはお年寄りにも親切だったし。ファンになっちゃったわ」
年配の二人組が楽しげに言うと、アークロイドが彼女らに向かって一礼する。
「またのご参加をお待ちしております」
仲のいい二人組はまんざらでもない表情を浮かべ、またね、と言って立ち去っていく。
帰っていく客とアークロイドを見比べることしかできないシャーリィに、自信に満ちた声がかかる。
「どうだ。俺の評価は」
ぐぐぐ……と唸り声をあげたくなる。
(まさか、私よりも人気になっているなんて……そんなの、嘘よ……)
もしかして、クラウスはこの展開を予想していたというのか。あり得ない。今日の助っ人は突発的な出来事だったはずだ。事前準備も心構えもできなかったはずなのに。
しかし、先ほどの客の反応を見る限り、誠実な対応をしてくれたようだ。本音を言えば、心底悔しい。でも自分が今、すべき行動はもう決まっている。
「百点満点です。どうもありがとうございました」
頭を下げて感謝を伝えると、アークロイドが首筋に手を当てる。気のせいか、少し耳が赤い気がする。
「……宮殿まで送る」
「え、本当に大丈夫ですよ。ミュゼもいるし」
ミュゼは気を利かして、遠くの噴水のところで待ってくれている。
護衛騎士がいることを視線で知らせるが、なぜかアークロイドは首を横に振った。
「病み上がりは口答えしない。おとなしく歩け。それともおぶってやろうか?」
「それは断固遠慮します」
「元気があるようで何よりだ。さあ、帰るぞ」
恥ずかしさを隠すように早口で言われるまま、宮殿の坂道をのぼる。後ろではミュゼが微笑みながらついてきてくれていた。



