転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 オリーヴィアに宮殿前まで送られて、ミュゼとともに寝室に直行することになったシャーリィはベッドの上で寝て過ごした。
 ぱちりと目が開き、時計を見やる。時計の針は午後二時半を指している。カーテンは閉まっているが、まだ太陽の位置が高い時間帯だ。
 のろのろと起きたシャーリィはうーんと伸びをした。薬が効いたのか、朝より体調がいい。背中に何かが乗ったような重だるさは消え、食欲もある。
 水差しからグラスに水を注ぎ、ごくりと飲み干す。

(おなかすいたな……)

 カーテンを開けると、まぶしい日差しが中に入ってくる。窓の外にはトマトの実が風でゆらゆらと揺れていた。
 そのとき、コンコンとノックの音がした。
 びくりと肩を震わせたシャーリィだったが、早足で自室のドアを開くと、すぐさま明るい声がした。

「姫様、もう起きて大丈夫なんですか?」
「ミュゼ。……もしかして、ずっとそこで待ってくれていたの?」
「はい。私は姫様の専属護衛ですから。体調を崩したとなれば、おそばに控えるのが仕事です。ところで食欲はありますか? よろしければ、厨房から何か持ってきますが」

 返事をする代わりに、お腹がぐう、と鳴った。
 二人の間に沈黙が降りる。シャーリィは居たたまれず、頬が熱くなる。

「何か、消化によさそうなものをお持ちしますね」
「……お願いするわ」

 部屋にとって返し、シャーリィはベッドの上にいそいそと戻った。風邪をぶり返すわけにもいかないので、おとなしく待っていると、しばらくしてミュゼが熱そうな陶器の器を持ってきた。

「おかゆを作ってもらいました。食べられそうですか?」
「ありがとう。いただくわ」

 ふーふーと息を吹きかけて、熱々のおかゆを口に運ぶ。
 卵とネギが散らされた卵かゆはほどよく塩気が効いていて、胃に優しい。パクパクと完食すると、ミュゼがお碗を下げてくれた。

「思ったより、お元気そうで安心いたしました」
「ごめんなさい。心配をかけたわね。……私はもう大丈夫だから、ミュゼは持ち場に戻っていいわよ」
「ですが……」

 ミュゼが少しうつむき、彼女の菫色の髪がさらりと首筋から胸に落ちる。しかし、すぐに気持ちを立て直したのか、キリッとした顔を向けた。

「わかりました。ちゃんと休んでくださいね」
「ええ」
「では、失礼します」

 パタンと扉が閉まり、部屋にはシャーリィだけになる。無音になった室内でそっと息を吐くと、外から小鳥の鳴き声が聞こえた。

(今頃、アークロイド様たちは何をしているかしら……)

 いくら前日に同じ場所を散策したといっても、ガイド役がいきなり務まるとは思えない。クラウスはスカウトしたいと言っていたが、どこまで本気かわからない。
 不安の種は一度芽吹くと大きくなる一方で、気持ちの行き場が定まらなかった。