転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 意識しないようにしていたことを口にされ、シャーリィは一瞬、頭の中が真っ白になった。至近距離には麗しい皇子のご尊顔がある。逃げ道はない。
 ピリリとした緊張感を何とかほぐそうと、無理やり営業スマイルを浮かべた。

「あ、えーと。お仕事に……」
「だめに決まっているだろう。風邪を甘く見るんじゃない。休むべきときは休め」
「……とは言っても、私の代わりがいなくてですね……。休むに休めないんです」

 代役なんて、いるわけがない。観光課は常に人が出払っているのだから。
 貧乏小国の事情に思い当たったのか、アークロイドが細く息を吐き出した。それから目を細めて、身体を縮めたシャーリィを見下ろす。

「今日の予定は?」
「水辺の散策ガイドなので、馬車で寝て治します」
「……昨日と同じところか」
「三日間やるんですよ。お好きな日に参加できるように。じゃあ、私は仕事があるので失礼します」

 椅子から立ち上がり、そろりそろりと横歩きで出口を目指す。
 ところが、少し歩いたところで、目の前にルースが立ち塞がる。仕方なく振り返ると、目が笑っていないアークロイドが腰に手を当てていた。

「シャーリィ」
「……はい」

 おかしい。ただの従業員と客のはずなのに。どうして逆らえない雰囲気になっているのか。けれども、この威圧感を前に逃げ出すような度胸はない。
 すべてを諦めたような心地で最後の審判を待っていると、アークロイドが口にしたことは予想したどの言葉とも違ったものだった。

「今日のガイド資料を至急手配しろ」