転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 アークロイドとシャーリィの問いかけに、後ろで控えていたルースが気まずそうに眉を下げた。

「ええ、まあ……。今回は護衛が任務ですので、目に焼き付けておきます」
「いつか私にも見せてくださいね!」
「……期待に添えるものかはわからないが……それでもいいのなら」
「楽しみにしていますね」

 微笑むと、わずかに目を泳がせてルースがたじろぐ。いつもはまったく表情が動かないのに、珍しい変化だ。

「次は水飲み場に行きましょうか。冷たくて美味しいですよ」
「ああ、よろしく頼む」

 遊歩道に戻り、木の標識が置かれた分かれ道を北に進む。黒い木の間を通り抜けると、しばらくして川辺に出た。飛び石を飛び越えて、向こう岸へと移る。
 山の斜面は半円形に切り取られ、その中央には竹の筒が紐で固定されている。筒からは清らかな水が絶え間なく流れ落ちており、シャーリィはその近くで腰を屈む。
 両手を重ね合わせて水を汲んで、ぐっと飲み干す。ポシェットからハンカチを取り出し、アークロイドに場所を譲った。

「どうです? 一口、飲んでみませんか?」

 手と口元を拭きながら言うと、アークロイドはルースと目配せをして、すっと前に出た。シャーリィと同じ要領で水を飲み、ルースが差し出したタオルで口元をぬぐう。

「なるほど、これは飲みやすいな……」
「でしょう? 病に効くかどうかはわかりませんが、癖がなくて飲みやすいんです」
「この水は料理にも使っているのか?」
「ええ、そうですよ。よくおわかりになりましたね」
「食後のコーヒーはいつもと違っていたからな。豆が違うのかと思ったが、水が違っていたのだな」

 タオルをルースに返しながら、アークロイドが感心したように頷く。

(料理に使っているのは知っていたけど、コーヒーの味が違うことはわからなかったわ。ミルクを入れる前に一口飲んでいたのは、味を確かめるためだったのね……)

 頭上で、烏の鳴き声とともにバサバサッと羽根を動かす音がした。つられるように空を見上げると、まだ明るいが雲が出てきていた。
 腕時計で時間を確認し、シャーリィは顔を上げた。

「……そろそろ帰る時間ですね。馬車に戻りましょう」
「もうそんな時間か」
「暗くなる前に帰らないと、危ないですから」
「名残惜しいが、そういうことなら仕方あるまい。戻るとするか」

 踵を返したアークロイドが足を踏み出した先は苔むした丸い石だった。

「あ、そこは……っ」
「うわっ!?」