「お待ちしておりました、アークロイド皇子殿下。わたくし、レファンヌ公国の第一公女、シャーリィと申します。早速ですが、お部屋にご案内させていただきます」

 お辞儀をして出迎えると、馬車から降りてきた青年がジッと見つめてくる。
 不敬にならない程度にシャーリィも彼を見つめ返す。
 藍色の髪は肩にかからない長さで、少し長い前髪から覗くのは灰色の瞳。理知的な瞳は不思議そうな色を宿し、整った目鼻立ちは芸術品のように美しい。
 白いワンピースに青い帯を腰に巻いただけのシャーリィとは対照的に、異国の服をまとう彼は皇子らしい気品にあふれている。水色を基調としたコートには金色の刺繍が施され、紺色のズボンは裾がゆるやかなデザインだ。
 アークロイドは、ぽつりとつぶやくように言った。

「……驚いたな。公女が一人で出迎えか。話には聞いていたが、ここまで人手不足とは。失礼だが、君はいくつだ?」
「先月、十六歳になりました」
「まだ子どもじゃないか」

 小馬鹿にした口調に、シャーリィはむっと口を尖らせた。
 隣の大国、トルヴァータ帝国の第六皇子。本日から長期滞在の上客だ。すでに半年分の滞在費を一括で前払いしてもらっている。
 本来なら一家一同、雁首揃えて出迎えたいところだが、いかせん我が国は貧乏国。大公をはじめ朝から観光ツアーで出払い、大臣も使用人も皆忙しい。決して、海の大国を侮っているわけではない。
 それに、シャーリィが一人で対応しているのにも理由がある。
 なぜなら、長期滞在の予定人数は二名。アークロイド皇子とその従者だけだ。こちらも非常識だが、皇子ともあろう方の供がたった一人だなんて、はじめは何かの冗談かと思ったほどだ。
 ちらりとアークロイドの後ろを見やる。主人の影のように存在を消しているのは、赤髪の男。ばちっと目が合うと、三白眼が威嚇するように細められる。
 シャーリィは慌てて視線をそらし、空咳でごまかす。

「……この国では、十六は成人の歳です」
「トルヴァータ帝国では、十八から大人として認められる。俺より四歳も下の子どもが案内役か」
「私は十二歳のときから、一人で働いています。ご心配は無用です」

 独り立ちするまでは、両親の横で愛嬌キャラとして振る舞ってきた。一人での観光案内も四年間の実績がある。こちらはプロとしてやっているのだと目で訴えると、諦めたようにアークロイドが吐息をもらす。

「君しか空いていないなら仕方ないか。……案内を任せよう」
「かしこまりました」