転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 負けを認めるしかない。完敗だ。横でいい眺めを堪能してもらうはずが、これでは作戦失敗である。誠に不本意ながら、操縦を代わってもらってからは安定した運航になっている。

「アークロイド様は器用ですね」
「まあ、今までそんなに苦労したことはないな」
「そんな台詞を吐けるなんて、うらやましい限りです。自分がみじめになってきました」
「……そんな顔をするな。ここへ連れてきてくれたのはシャーリィだろう? ボートで湖を一周するなんて経験、俺は生まれて初めてだ。風が気持ちいいな」

 風の手が伸びて、湖面が波立つ。驚いたのか、魚がぴょこんと飛び跳ねた。

「アークロイド様、魚ですよ!」
「ああ。きれいな鱗をしていたな……この地域に棲んでいる魚か?」
「見たことがある魚なんで、たぶんそうでしょう。名前は忘れましたが……」

 確か長ったらしい名前だったのは、うっすらと記憶している。おそらく観光課の資料室に行けば、名前はわかるだろう。

(クラウス長官やテオなら、すらすらと名前が出てくるのでしょうね)

 すでに諦めたシャーリィの横顔を見て、アークロイドが肩をすくめた。

「食べられたらそれで満足する口ぶりだな……」
「……なんでわかっちゃうんですか?」
「さあ。そんな気がしただけだ。図星だったようだな」
「…………アークロイド様が意地悪です」

 軽く拗ねてみせると、頭をぽんぽんと撫でられた。子ども扱いされている気がする。

「そろそろルースがしびれを切らしている頃だろう。戻るとするぞ。シャーリィも手伝ってくれるか?」
「も、もちろんです。というか、私ができることってそのぐらいですし……」
「陸に上がったら、今度は穴場に案内してくれ」

 その提案がシャーリィを気遣ったものであることは、わざわざ聞かなくてもわかった。