転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

「シャーリィ様、着きましたよ」

 ラウルの渋い声がする。だが、意識はまだ半分が夢の中だ。

「んー……」

 肩を優しく叩かれ、シャーリィは身じろぎをする。ゆらゆらと揺れる水面の上に浮かぶ夢から目覚めを催促され、目をしぱしぱとさせながら目元の涙をぬぐう。
 起きければならない。けれど、どこまで夢だったか、現実との境目が曖昧だ。眠る前は何をしていたかと、おぼろげな記憶の糸をたぐり寄せていると、呆れたような声がかかる。

「……早く起きろ。寝ぼすけめ」

 その声で、残っていた眠気が雲散霧消した。態度は大きいが、意外にも親切な面もある海の大国からの上客。そこまで思い出して、シャーリィはパチリと目を開けた。

(ん? いつもより枕が硬い……)

 視界がいつもとわずかに違う。馬車でうたた寝をしていたはずだが、なぜルースの顔が横向きなのだろう。

「いい加減、起きてくれ。足がしびれた」
「へ……?」

 おそるおそる視線を上げると、至近距離にアークロイドの整った顔があった。見下ろされる視線は冷たい。シャーリィはそこでようやく、自分が膝枕されていたことに気づいた。
 慌てて起き上がり、平伏せんばかりに頭を下げた。

「……お、おはようございます!」
「その様子だと、よく眠れたようだな。クマが取れている」

 感慨深い声に、ハッとして目元に両手を当てる。だが、鏡がないため、自分の顔を確認できる術はない。

「まだ子どもなんだから、睡眠時間は削るな。しっかり寝ろ」

 子どもじゃないと反論したかったが、寝不足で迷惑をかけたのは事実だ。シャーリィは頭を下げて、粛々と言葉を受け止めた。

「面目ないです……」
「不注意で事故に巻き込まれても知らんぞ」
「以後、気をつけます……」

 耳が痛い忠言にうなだれていると、励ますように声が優しくなった。

「さあ、案内してくれ。俺はこれでも楽しみにしているんだ」

 顔を上げると、灰色の瞳と視線が交差する。

(しっかりするのよ、シャーリィ! 日頃部屋でひきこもっているアークロイド様に、公国の魅力を伝えるチャンスだもの!)

 自分に活を入れて馬車から降りる。
 アークロイドは口角を上げ、えらそうに腕を組んでいる。その後ろで、ラウルが帽子を両手で握りしめ、こちらを心配そうに見つめてくる。
 目の前には、レンガを敷いた遊歩道が続いている。

「ここからは遊歩道を歩き、まずは森のロッジを目指します。途中に細い道や階段もありますので、お足元にお気をつけください」
「わかった」