はっとして瞼を開ける。
天蓋付きのベッドから身を起こすが、看病していたはずの父母の姿はない。そろりとベッドから抜け出し、姿見の前で立ち尽くす。
「私の顔じゃない……」
亜麻色のウェーブがかった髪は腰まで伸びている。平々凡々の日本人ではなく、西洋風の顔つきだ。小顔でくりくりとした緑の瞳、ぷっくりとした桜色の唇。
何度瞬いても、鏡の中の自分は困惑して見つめ返すだけ。
「……噓でしょ? 私……私は……」
シャーリィ・レファンヌ。黒の小国と呼ばれる、レファンヌ公国の公女だ。兄弟姉妹はおらず、山に囲まれた貧乏小国の跡継ぎである。
国土も狭く、主な税収は観光収入と通行料。古い宮殿の使用人は限られた人数しか雇えず、公女でさえ、観光案内をして生活をしなければならない。
民との区別はあってないようなもの。万年人手不足のため、基本的に自分の世話は自分でする。けれど、それがみじめだと感じたことは一度もなかった。
だって、この公国は「働かざる者食うべからず」が主流の考えなのだから。
他国のお姫様のような暮らしとは縁遠いが、自ら働くことでやりがいはあるし、民や観光客とふれあうのは心が温まる。
両親の特別観光ツアーは人気だし、シャーリィだって負けてはいない。家族一丸で朝から晩まで働いている。最終承認は大公や大公妃の許可がいるが、外交や内政は大臣の仕事だ。
シャーリィはふらふらとベッドに腰かけ、がくりとうなだれた。
「今の暮らしに不満はないけれど……私のミニトマト! 美味しい状態で食べたかった!」
転生するなら、せめて一口でもいいから、食べ納めしてからにしてほしかった。
それだけが悔やまれる。
レファンヌ公国の土地は痩せていて、食物が育たない。国土を覆う木々は一般的な木々ではなく、魔木だ。この国にしか自生しない黒い木の周りは畑を作っても、すぐ枯れてしまう。
そのため、食料品はほとんどを輸入に頼りきっている。四方を山に囲まれており、道も平坦ではない。輸送手段は馬車で、安い馬を輸入しているから馬の足も遅い。
つまり、この国で新鮮な野菜を食べることはできない。
「みずみずしいトマトがもう食べられないなんて……!」
両手で顔を覆い、嘆く。開いていた窓から入ってきた風がなだめるように、そよそよとカーテンを揺らした。
天蓋付きのベッドから身を起こすが、看病していたはずの父母の姿はない。そろりとベッドから抜け出し、姿見の前で立ち尽くす。
「私の顔じゃない……」
亜麻色のウェーブがかった髪は腰まで伸びている。平々凡々の日本人ではなく、西洋風の顔つきだ。小顔でくりくりとした緑の瞳、ぷっくりとした桜色の唇。
何度瞬いても、鏡の中の自分は困惑して見つめ返すだけ。
「……噓でしょ? 私……私は……」
シャーリィ・レファンヌ。黒の小国と呼ばれる、レファンヌ公国の公女だ。兄弟姉妹はおらず、山に囲まれた貧乏小国の跡継ぎである。
国土も狭く、主な税収は観光収入と通行料。古い宮殿の使用人は限られた人数しか雇えず、公女でさえ、観光案内をして生活をしなければならない。
民との区別はあってないようなもの。万年人手不足のため、基本的に自分の世話は自分でする。けれど、それがみじめだと感じたことは一度もなかった。
だって、この公国は「働かざる者食うべからず」が主流の考えなのだから。
他国のお姫様のような暮らしとは縁遠いが、自ら働くことでやりがいはあるし、民や観光客とふれあうのは心が温まる。
両親の特別観光ツアーは人気だし、シャーリィだって負けてはいない。家族一丸で朝から晩まで働いている。最終承認は大公や大公妃の許可がいるが、外交や内政は大臣の仕事だ。
シャーリィはふらふらとベッドに腰かけ、がくりとうなだれた。
「今の暮らしに不満はないけれど……私のミニトマト! 美味しい状態で食べたかった!」
転生するなら、せめて一口でもいいから、食べ納めしてからにしてほしかった。
それだけが悔やまれる。
レファンヌ公国の土地は痩せていて、食物が育たない。国土を覆う木々は一般的な木々ではなく、魔木だ。この国にしか自生しない黒い木の周りは畑を作っても、すぐ枯れてしまう。
そのため、食料品はほとんどを輸入に頼りきっている。四方を山に囲まれており、道も平坦ではない。輸送手段は馬車で、安い馬を輸入しているから馬の足も遅い。
つまり、この国で新鮮な野菜を食べることはできない。
「みずみずしいトマトがもう食べられないなんて……!」
両手で顔を覆い、嘆く。開いていた窓から入ってきた風がなだめるように、そよそよとカーテンを揺らした。



