朝は普段より少し早く起き、バルコニーの鉢の様子を見る。
 豆粒ほどだった実は徐々に大きくなり、五百円玉サイズまで生長した。色は赤みがかったオレンジ色。収穫の時は近い。
 瑞々しい葉っぱを触り、手触りを確かめる。葉に厚みはあるか、色が濃すぎないか。
 最近は葉の状態を見て、肥料が必要な時の見極めがなんとなくわかってきた。肥料が多すぎると、葉の色が濃くなるし、病気にもやられやすくなる。

(……まさか、前世で買ったベランダ菜園の初心者解説本の知識が、異世界で役に立つとは思わなかったわね……)

 初心者用とタイトルにあるだけあって、解説は写真付きでわかりやすかった。前世ではわき芽取りはできなかったが、今世ではやってみたい。

(うーん。二本仕立てにしたら、余計な側面から出た芽は取っていい……はずだけど、うーん。これかな?)

 伸ばす枝と摘み取る枝を選り分ける。完成形をイメージして育てない芽を摘み取っていく。せっかく出てきた芽を摘むのは罪悪感があるが、背に腹はかえられない。
 にょきにょきと伸びた茎が、重みで下に垂れ下がっている。
 前世での失敗は、植物はまっすぐに伸びるものだと思って、直線的に誘引したことだった。結果、ミニトマトの茎は垂直に伸びて、様子見に来た友人に驚愕されたのだった。

(園芸の知識なんてないから、ミニトマトは折れない程度に曲げて、支柱に沿わせるなんて思ってもみなかったのよね……)

 友人いわく、茎を誘導するのは、世話のしやすさが関係しているらしい。

(このまま背丈が高くなったら収穫が大変になるわよ、と脅されもしたっけ……)

 垂れ下がった茎を少しずつ傾け、支柱にビニール紐でくくりつける。折れない程度に力を加え、伸ばす向きを調整する。

「よし、こんなものかしら」

 出来映えに満足し、簡易資材置き場から肥料の入った袋を取り出す。軍手をはめ、土を少し掘り返して、小粒の固形肥料をパラパラとまく。その上に土をそっと被せ、最後に水やりをしたら朝のお世話は完了だ。
 朝日のまぶしさに目を細める。早朝はまだマシだが、今日も暑くなりそうだ。