東屋に戻ると、紅茶はすでに冷めていた。ティーカップを変えようとしたら、手で制された。

「これは冷たくても美味しい。喉に優しいしな。……貴重なものだったのだろう?」
「どうしてわかったのですか?」
「顔に書いてあった」

 反射的に両手で頬を押さえる。客商売で感情はうまく隠せるようになったと思っていたが、うっかり気が抜けていたか。ひとり焦っていると、なぜかアークロイドの肩が小刻みに揺れている。まさかと思いながらも、念のために尋ねた。

「当てずっぽうだったとか、そんなことは言いませんよね?」
「…………」
「人を試すような真似をする方だったとは思いませんでした」
「わ、悪かった。なんとなく、そんな気がしただけだ。シャーリィはちゃんと表情を取り繕っていた」

 弁解のような声が聞こえてきて、シャーリィは少し膨れた。だが、その顔色が今度は焦りに変わったのを見て、溜飲を下げる。

(まだちょっと釈然としないけど、また少し距離が近づいたと思えばいいかな?)

 自分なりの妥協点を探し、シャーリィは今まで聞きたくて聞くのをためらっていた質問を口にした。ちょっとした意趣返しだ。

「アークロイド様は皇位に興味がなかったんですか?」
「……直球だな」
「す、すみません。皇位継承権で身内が争うということが、あまり想像できなくて」

 素直に謝ると、アークロイドは前髪をかき上げた。

「まぁ、この平和な国で育ったのなら無理もないか。トルヴァータの次期皇帝は指名制だということは知っているか?」
「え、ええ。歴史の授業で学びました」
「優秀な者を帝位につかせるために、生まれた順で継承順位を決めるやり方を、我が国は取り入れなかった。すべては、実力のある者を選ぶために」