転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 二週間後、シャーリィはフロント経由で呼び出され、アークロイドの部屋を訪れていた。
 呼び鈴を鳴らして部屋に入ると、肘掛けつきの椅子に座ったアークロイドが口角を上げて言う。

「届いたぞ」

 彼の視線の先には、陶器の鉢、複数の袋、小さな苗が置かれていた。その横にはスコップと軍手、園芸用のハサミ、じょうろ、支柱まで揃っている。
 至れり尽くせりだ。

「……本当にこれで野望が叶うんですね」

 苗の側でしゃがみこみ、緑が濃い葉を優しく撫でる。茎はぴんと張り、黄色い花が身を寄せ合うように連なっている。

(私のミニトマト……今度こそ美味しい状態で食べられる!)

 アークロイドは立ち上がり、うっとりと苗を見つめるシャーリィの横に並ぶ。

「まだ苗と土を取り寄せただけだ。今はピンピンしている苗でも、この国の環境に合うかもわからない。しっかり世話しろよ」
「合点承知です!」

 拳を握って頷くと、アークロイドが静かに問う。

「……ところで、どこで世話するんだ?」
「そう……ですね……」

 思い出すのは前世のベランダ栽培。だが、ここには屋根付きのベランダはない。
 だとすれば、どこで栽培するのが最適か。

(できれば手元で育てたいし、そうなると……)

 シャーリィは顎に手を当てていた腕を下ろし、アークロイドに向き直る。

「バルコニーで育てたいです」
「……待て。宮殿のバルコニーに鉢を置くつもりか?」
「いけませんか?」
「威厳が損なわれるというか……」

 言葉を濁して、渋い顔をされる。だが、シャーリィは前言撤回するつもりはない。

「そんなもの、うちにはありません。レファンヌ公国の多くは、不毛な土地に囲まれています。海の大国のような豪奢な暮らしとは無縁ですし、宮殿は観光客も入れません。それに、私の部屋のバルコニーなら西向きなので、観光客の目に触れることもないでしょうから」
「そうか……。それなら……いいのか……?」

 首を傾げながら、アークロイドは無理やり自分を納得させている。
 その様子を横目で見ながら、シャーリィは宮殿に運ぶために台車の手配をしに部屋を後にした。