転生公女はバルコニー菜園に勤しむ

 約束の時間、アークロイドは従者を連れて食堂に顔を出した。
 料理長に目配せすると、すぐにデザートのお皿が運ばれてくる。熱々のアップルパイからは熱気がもれ出て、その横にはアイスが添えられている。

「どうぞお召し上がりください」
「料理長、ありがとう」
「いえ」

 アークロイドが着席し、その横にシャーリィも腰を下ろす。

「……いただこう」
「いただきます」

 フォークで生地を割ると、中から焼いた林檎がとろっと出てくる。
 そのまま口に頬張れば、ほどよく甘い林檎とサクサクの生地の組み合わせは見事と言うよりほかなく、合間に挟まれているカスタードクリームが絶妙なバランスで口の中を幸せにしてくれた。
 次にひんやりとしたアイスが舌の上で溶け、熱々と冷たいコラボレーションは背徳感を抱かせる。

「……いかがですか」

 横で食べていたシャーリィが控えめに尋ねると、アークロイドが小さく頷いた。

「絶品だ。ここの料理長はいい仕事をする……」
「そうですよね。これは……贅沢なひとときですよね。お仕事、頑張れそうです」
「ああ。そのとおりだ」

 食の感動を共有したことで、目に見えない絆が結ばれた気がした。美味しいものは人に幸せをもたらす。その尊さを改めて実感した。

「何かお困りなことはありませんか? 少しでも気になった点がございましたら、改善させていただきますが」

 シャーリィがさりげなく探りを入れると、そうだな、とつぶやき、考えこむような沈黙が続く。アークロイドはフォークを置き、腕を組んだ。

「セルフサービスは戸惑ったが、慣れればどうということはない。ここでは祖国のように、他人に気を遣う必要もないしな。案外、自分で動くのも悪くない」
「ご満足いただけたようで何よりです。ですが、そろそろ退屈なさっている頃合いではありませんか?」

 初めは物珍しさが勝っていただろうが、慣れれば当然飽きがやってくる。半年にわたる滞在期間をいかに退屈なく過ごしていただくか。シャーリィの腕の見せどころだ。

(ここはアークロイド殿下の特別ツアーでも企画したほうがいいかしら)

 脳内で算段をしていると、アークロイドがゆっくりと首を横に振った。

「いや、しばらくは部屋で過ごす。城下町で仕入れた本もたくさんあるしな。暇つぶしに散歩もしているし、こうして伸び伸びと過ごせるのは数年ぶりだ。気遣いはありがたいが、適度に放っておいてくれて構わない」
「……かしこまりました」

 お客様の要望を叶えるのが従業員の仕事である。