そして迎えた、転校生がやって来る日。

教室の扉が開いた途端、皆拍手をし始め

る。

前の方の席の女子達は「ねえ、あの子可愛

いくない?」

と話し始めた。

やがてその子は、教壇の位置に立ち、「笹

宮月乃です。」と名乗り、微笑む。

ちょっとは、、、可愛いな、と思った。

その子は、当時の僕の席の右斜め後ろの、

最後列の右端に座る。

その日の休み時間は、その席の周りにクラ

ス関係無く集まってきたのを覚えている。


その日、転校生には、、、、近いけど、遠

かった。

そのうちに、その転校生は瞬く間にクラス

に馴染んだ。

転校生には、大きく分けて2パターンあ

る。

1つは、外見が良くて性格も万人受けし、

クラスのみんなを目新しさとレアさですぐ

に魅了し、あっという間に友達を作る人。

2つ目は、初日からパッとせずに、恥ずか

しがって話しかけられてもそのみんなに愛

想悪くし、いじめなどの対象となる人。

笹宮月乃は、前者だった。

もし僕なら、間違いなく後者だっただろう。

慣れない町に来て、知らない人ばかりに囲まれ

て、恥ずかしくならないはずがない、、、

そういう風な事を考えながら、ある日の昼

休み、借りたい本があるため図書館に向か

っていた。

図書室の扉を開けた途端、中の光景を見回

すと、「あっ。」と声が出た。笹宮月乃

は、周りに沢山人がいてもその中ですぐ認

識できるくらい可愛いくて目立った。

増してや、彼女の読んでいる本が自分も今

から借りようと思っていた物だと分かる

と、余計に気になった。

そして、思ってしまった。

(もしかすると、、その本を読んだら貸し

て、とか言ったら話が出来るのでは?) 

と。

勉は彼女の真正面の1つ手前の席に座る。

斜め前は、魔法の位置だ。

「ね笹宮さん。」

勢いで話しかける。少し彼女は目線を上げ

る。勉は別の物へ視線を移す。人と目を合

わせるのは苦手だ。

「その本読み終わったら良かったら貸して

欲しいんだけど、、まあ、別に嫌な

ら、、」

しどろもどろになりかけた。すると、

「うん。後ちょっとで終わるからね。」

さっぱりと言って、彼女は視線を戻した。

でも数秒経ってから、さっきよりも顔を少

し本に近付けて、目をちょっと大きくし

て、

「このシリーズ、本当に面白いよね?」

と言う。

勉は、やや一起に話が展開される予感がし

た。

「ああ、、うん、そうかもね」

無愛想な返事で、会話は終わった。



もっと続けたい気がした。

何なのか分からないが、急に自分達の教室

に加入したこの転校生は、もしかしたら嵐

のようにやってきて自分と関わりを持つよ

うな、そんな気がしていた。今までクラス

に馴染めなかったせいか、そんな存在を待

っていたといえるかもしれない。


30分弱してから手渡されたその本を読みな

がら、視界にほんのわずかに映るその子の

黒い髪の毛を気にしていた、、、、

笹宮月乃。クラスの一軍オーラは無いの

に、不思議と自然に上位層と仲良く笑い合

える奴だった。





その日は、そんな彼女の不思議さと本の世

界に浸りながら、家でもひたすら読書をし

ていた。気付いたら12時半だった、、、