「…………」
【賢者】として、できることをしただけである。
案の定、姉アリアリリィの暴走は朝まで続き、放置すれば国が滅んでいたことだろう。
それを逆に利用して黒点を封印し直したアーファリーズ・エーヴェルイン伯爵令嬢は、賞賛と批難を浴びて国外から出る道を選んだ。
理由としては、あの黒点——魔王と魔王の城が封じられた空間への入り口を再封印する準備が、シーディンヴェール王国と各国で秘密裏に進められていたにもかかわらず、事故とはいえ勝手にその修繕を行なってしまったため。
それだけの力を有している国として、他国に危険視されたのだ。
アリアリリィ・エーヴェルイン嬢の存在は国としても危険だと判断され、魔力封じの上監視がつくことになった。
妹であり【賢者】のアーファリーズ・エーヴェルイン嬢は、各国の脅威であり、また同時にその魔法の力は喉から手が出るほど欲されるものとされて、あの手この手で他国が接触を図るようになる。
それを疎ましく思った当人の申し出により、アーファリーズ・エーヴェルイン嬢はその存在を完全秘匿の上、世界中を渡り歩くと宣言した。
ただし、姉アリアリリィ他、彼女の家族はシーディンヴェール王国に引き続き住まうので、「万が一家族に手を出そうものならば【賢者】の力をすべて注いで関係各位全部消す」と言い残したという。
つまり、それが国家ならば——。
世界は畏れ、かの【賢者】を見送った。
九つの誕生日を迎えたその日、アーファリーズ・エーヴェルイン伯爵令嬢はすべての責任を取り、なおかつ家族や生徒たちを守るために消えたのである。
そして、生徒たち。
エリザベート・ケイアーとロベルト・ミュラーは卒業後に結婚。
夫ロベルトは魔法騎士団の団長となり、妻エリザベートは冒険者や一般市民の生活を豊かにする事業で成功を収める。
二人の家族の尽力により『勇者特科』は解体。
制度そのものも、見直されることとなった。
それを皮切りに他国でも『勇者特科』の制度は廃止が検討され始めている。
なお、二人の子どもは男女の双子が一組、その下に女、男、女、と五人兄妹が生まれたらしい。
ヘルベルト・ツィーエは騎士団に入団後、他を寄せつけぬ強さで瞬く間に団長に就任。
マルレーネ・ユストへ恋文を毎週欠かさず送っているらしいが、彼女の義兄たちがめちゃくちゃ邪魔だてしているらしい。
道のりは険しそうである。
そのマルレーネ・ユストは、卒業後身寄りのない子どもを集めた孤児院を王国中に増やして支援をし続けている。
その聖母のような姿に求婚者が続出。
しかし彼女の義兄により、すべて断られている。
ただ、毎週届く一通の手紙だけは、毎回箱の中に丁寧にしまってあり、時々読み返して胸に抱いている姿が見受けられるらしい。
モナ・クラウゼは卒業前に、王立学園の魔法科に移籍した。
そこで回復魔法をさらに専門的に学び、現在は王立治癒魔導師として多忙な日々を送っている。
婚約の話が貴族から持ちかけられることも多いらしいが、すべて断りこう言っているらしい。
「いつか、あの人と旅をするんです。それまでもっと勉強して、経験を積むんです! だから、結婚はしません!」
そして、最後。
フリードリヒ・フォンカー。
彼は在学中、学園を特別退学して消えた。
現在どこでなにをしているのか、誰も知らない。
「師匠〜! 焚き火準備できました!」
「はいはい、それじゃ今夜のご飯を狩ってくるとしますか!」
「あ! 今日はおれ一人で行ってきてもいいですか!?」
「え? いいけど……もうすぐ町だから、ちょっと珍しいの狩って、素材売って旅費増やしたいんだけど」
「え! もうすぐ町なんですか!?」
「そうだよ」
ぱあ、と笑顔が花咲く。
赤髪、緑目の少年は、夜の帷が下りている空を見上げた。
その視線は、まだ見ぬ新たな町、出会いへの期待に輝いている。
彼はこの旅で、いろいろなものを見聞きした。
これからもいいものも悪いものも、多く見聞きするだろう。
それでも彼の根本は変わらなさそうである。
「楽しみです!」
「うん、だから……レア魔物、探すよ。『邪泉』を見つけたら、いつも通り頼むよ。【勇者】殿」
「はい!」
了



