転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

 
「いくよ、アリア」
「な、なにをするの、アーファ……」
「空の黒点を封印し直す。大丈夫、封印が解け切れてないあの状態の黒点なら、ボクとキミと【勇者】が一人いれば成せるよ。ってわけで【勇者】フリードリヒ、手を貸してもらう! 【勇者】固有の称号スキル[聖浄化]で黒点から溢れる瘴気を浄化するんだ。今のキミになら間違いなくできる!」
「よ、よくわかりませんけど、やってみます!」
「それでいい! では行くよ! 魔法陣生成でこの魔力竜巻を消す! 全員で魔王復活を完全に潰えさせるから、その瞬間補助に回って! 外の露払いは頼んだよヘルベルト!」
「了解した! 王子たちに邪魔はさせない! 心置きなく世界を救ってください!」

 頼もしい。
 そしてさすが、わかってらっしゃる。
 そうなのだ、それなのだ。
 本当に、あのアホ王子やその婚約者の横槍が一番困る。
 四侯爵家の子息であり、最近は冒険者からも信頼厚いヘルベルトなら心置きなくこちらに集中させてくれるだろう。

「[演算]!」

 アリアの集める魔力をリズの方へと流し、魔法陣を形成する。
 これはアリアとリズが双子だからできること。
 肉体情報がほぼ同一だから、なんの問題もなくアリアの魔力をリズが使えるのだ。
 一人で追いつかない魔法陣形成の計算を魔法で行う。
 次の瞬間竜巻が消え、魔法陣に変換される。
 竜巻が消えると指示通りロベルトとモナがリズの魔法制御の補助、エリザベートが[演算]魔法の補助に入ってくれた。
 マルレーネが[演算]で導き出された黒点までの距離や風、位置の微調整を[狙撃]スキルの上位スキルの一つ、[超長距離狙撃]のスキルを用いて行う。
 こういうことは、やはり弓士であり狙撃の専門家たる彼女に任せるに限る。
 外はヘルベルトが的確に整理してくれるはずなので、あとはフリードリヒの【勇者】っぷりに期待するしかない。

「くっ……なんて、魔法……! わたくしの[鑑定]では、これは……っ!」
「諦めるなエリザベート! 僕も手伝う! こうなったらやるしかないしね!」
「え、ええ……ロベルト……あなたがいるなら、わたくしがんばります。……弱音を吐いてごめんなさい」
「そんな君も可愛いよ」
「んぎー! ロベルトさん、いちゃつく余裕があんのぎゃー!」

 モナ、キャパオーバーで言語が怪しい。
 だがこんな状況でもいちゃつけるロベルトとエリザベートの余裕は素晴らしいと思う。
 いつも通りすぎる彼らに強張っていたアリアとマルレーネの表情も柔らかくなる。

「フリードリヒ」
「はい! 失礼します!」

 重ねられたリズとアリアの手に、フリードリヒの手が重なった。
 リズは目を閉じる。
 無限に湧くかのようなアリアの中の魔力と、アリアが集める魔力。
 この二つを同時に処理していかなければならない。
 これらを使い、今も空に広がり続ける空間の出入り口——黒点を再封印する。
 あれはかつての勇者たちが七人がかりで空間を作り、魔王とその一派、おそらく魔王の城なども封じ込めたはず。
 五重の結界のうち、最初の結界である空の擬態——そこに空間の入り口がある——ものは破られてしまっている。
 空間結界は残り4つあるはずだが、黒点の広がり具合から二番目の結界もほぼ破られ、消えているのがわかった。
 残りは3つ。
 その3つめの結界も薄くなっている。

(つまり、3つ目の結界の修繕と補強、破られた4つ目の結界の張り直しと補強、擬態となる5つ目の結界の張り直しと補強が必要ってことか。同レベルの結界を張るには——え、やば、今ここにある魔力で足りねーだと……? 昔の勇者たちやりおるな)

 どんどん集まる魔力でも、あの三枚の補修と張り直しに足りないことがわかった。
 ならば一枚一枚、丁寧に張り直せばいい。
 その間にアリアが魔力を集めてくれる。

「三枚目の結界の補修を開始する。マルレーネ、頼むよ」
「わかりました!」

 マルレーネのスキルで、リズが雑に開始する修繕を適切な場所に誘導する作業。
 次の瞬間、光の柱がその場から黒点まで一気に突き抜ける。
 光の柱の魔力は黒点の中の結界を直し、強化していく。

「次、四枚目の結界を張り直す。マルレーネは引き続きボクのサポートをお願い。フリードリヒ、気合い入れてね。お前はただ、みんなを守りたいって念じてればいいから」
「はい! わかりました!」

 返事はいいが、本当にそれができる人間はいない。
 だから!リズとアリアの魔力に混じる金の光……【勇者】の祈りは、()()()()()()()】なのだといえよう。

(こいつ……)

 フリードリヒは、本気で、心の底から、なんの迷いも疑いもなく、「みんなを守りたい」「世界を守りたい」と思っている。
『勇者特科』という制度はクソだ。
 リズは今もそう思っている。
 なくした方がいい。
 なくさないなら、せめて形を変えるべきだと。
 それでも、古の勇者たちが遺した願いの形……現代に至るまでにすっかり歪んだその中で、彼のような正真正銘の【勇者】がその願いや想いを正しく受け取り、こうして形になるのは——。

(昔の勇者も、嬉しいだろうな)

 その作業は、朝まで続いた。
 アーファリーズはその間、多分ずっと怒っていた。
 こんないい子たちの人生を、この国は——世界は——潰そうとしていたのだから。