「クックックッ……喜んでもらえたようでなによりだ」
「あ、ゼジル様!」
「っ」
髪をかき上げながら、ラステラとその取り巻きを引き連れて現れたのはゼジル。
ラステラのドレスのぱっつんぱっつんっぷりに、一瞬噴き出しそうになったが耐えた。
睨みつけると、それは満足そうに見下ろしてくる。
この男、八歳の女児相手に金までかけて……どこまでも残念だ。
国王陛下に「好きにしていいよ」という許可もあることだし、物理的に一度ぺしゃんこにしてやるべきだろうか?
しかし、姉の目の前ではできない。
リズの姉、アリアは魔法の使用に関してはこそポンコツだが、その小さな体に保有する魔力量は王国保有の魔力蓄積型魔石——五つ分に相当する。
挙句周囲に存在する自然魔力を収集するスピード……なんなら、物質を分解して魔力に変換してしまう能力まで持っているのがこの姉だ。
一見人畜無害だが、リズが【賢者】、モナが【聖女】ならば彼女は生まれながらの【魔女】だろう。
前世もリズの姉……『アリア』はその悪用すれば魔王も顔を青くしそうなその魔力量を【魔女】とされて利用された。
確かに能力は恐ろしいかもしれないが、リズには優しくて大切な姉。
要は悪用しなければいい。
(そして絶対それを知らないアホ王子)
なんならリズの【賢者】もわかっていない。絶対。
本当に愚かとしか。
ここまでくるといっそ、愛おしいほどアホだな、と思えてきた。
「おい! なにか言うことがあるのではないか? あん?」
「え? ああ、ご卒業おめでとーございまーす」
「……ちっ」
舌打ちされても知ったことではない。
隣で姉が「アーファ、王子様に対して失礼なんじゃない?」と心配してくる。
今更遅い。
「……それで……」
ちらりと小馬鹿にした表情でリズの後ろを見るラステラ。
その眼差しはヘルベルトに注がれている。
同じ四大侯爵家の次男……ラステラとしても結婚相手にとってはアリ。
しかしラステラはゼジルの婚約者だ。
色目を使うのはお門違い。
「ふん、貴様らが勇者特科の【勇者候補】どもか! 国の金でのうのうと生きている役立たずが、ずいぶんたいそうに着飾ってきたものだな!」
「え」
「……まあ?」
リズの後ろにいた六人を指差すゼジルに、さすがのリズも、ラステラも驚いた。
エリザベートが妖艶に微笑み返すが、ヘルベルトとロベルトもパチクリと目を見開く。
次の瞬間ラステラが顔面蒼白になり、慌ててゼジルの側へ近づき、扇子で口元を隠しながらボソボソと耳打ちする。
「ええ? 嘘でしょ? 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけれど、キミ、王子のくせに上位貴族の身内の顔も知らないの? 大丈夫? 頭」
「ア、アーファ!?」
「か、管理人殿っ!」
もが、とヘルベルトに口を塞がれた。
隣のアリアも「こらぁ!」と怒り顔。
(またやってしまった)
つい。
本当に、つい、本音が。
「な、なんだと、無礼な……」
「ゼジル様っ!」
「ぐっ……」
「し、失礼しましたわ。え、ええと、ほら、あ、あなた方は表舞台には、もう来られないと思っておりましたから? ……エ、エリザベート様……」
「ええ、そうですわね」
にっこりと微笑み返すエリザベート。
ラステラの言いようは、包んであるものの失礼ではあるだろう。
その場の誰もが息を呑む。
四大侯爵家のさらに上、公爵令嬢エリザベート・ケイアーの存在感は、ラステラを圧倒していた。
「わたくしも、まさか呼んでいただけるとは思っておりませんでしたわ、ゼジル殿下。本日はお招きありがとうございます。皆を代表して御礼申し上げますわ」
「お、う……」
見事なカーテシー。
気品もさることながら、その存在感をより広範囲に知らしめるような透き通る声。
リズの称号スキル[威圧]に似ているが、彼女はこれを努力によって得ている。
純粋にすごい。
「『勇者特科』入学前に二度ほどお会いしていますが、覚えておいでかしら?」
「え!? ……え、お、あ……ま、まぁ、お、覚えてない、こともない」
あれ絶対覚えてない顔である。
エリザベートはそれにもにこりと微笑み返す。
普段ならリズ同様スルッと余計なこと言うくせに。
(いや、これがエリザベートの“戦闘モード”か……!)
リズは持ち合わせていない、淑女戦闘モード。
普段醜いゴブリンや、人間の数倍あるビッグボアやグレートボアを突き刺しまくるエリザベートが、魔物と戦う“戦闘モード”になったならゼジルやラステラごときに遅れなどとるはずもない。
正直目の前に立っているだけでも恐ろしいのではないだろうか。
「それは光栄ですわ。久しぶりにお会いしたから、わたくしたちのことなどお忘れになられているのかと案じておりましたの。覚えていてくださるなんて、さすが殿下ですわ。ねぇ?」
「はい、覚えていてくださるとはまことに光栄です。殿下」
「この度はご卒業おめでとうございます」
「お久しぶりです、殿下」



