転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

 
 会場に入る前から奇異の目と、オブラートに包まれた疎む声。
 萎縮したモナとマルレーネは俯いてしまう。

「顔をお上げなさい、モナ。マルレーネ、あなたはユスト家の令嬢でしょう? それでは家に迷惑がかかりますわよ」
「っ」

 五重のレースと薔薇の刺繍が施された、ド派手な真紅の肩出しドレス。
 それを見事に着こなしておられるのは、ケイアー公爵家のエリザベート嬢である。
 バサッとドレスと同じ赤い扇を広げると、むしろここからが自分の得意戦場であると言わんばかりに微笑む。
 おそらくリズでさえ、この戦場で彼女に勝てるところはない。

「よろしくて? 絶対に俯かない。あなたたちが果たすべきはそれだけですわ。あとはわたくしが引き受けるので安心なさい」

 頼もしすぎではなかろうか。
 ロベルトじゃなくても「カッコいい〜」と言いたくなる。

「よろしいですか?」
「ええ」

 会場入り口にいた使用人の問いかけに、エリザベートが優雅に頷く。
 すると使用人は招待状の名前を改めて確認後、会場ホール内へ高らかに来客の入場を告げる。

「勇者特科より、ヘルベルト・ツィーエ侯爵令息! ロベルト・ミュラー伯爵令息! フリードリヒ・フォンカー騎士爵子息! 同じく勇者特科より、エリザベート・ケイアー公爵令嬢! マルレーネ・ユスト侯爵令嬢! モナ・クラウゼ嬢! アーファリーズ・エーヴェルイン伯爵令嬢!」

 ざわ、と一瞬ざわめく会場内。
 会場内にいた者たちのその目は、どちらかというと驚きの方が強い。

(ははーん……さては学園卒業予定者たち、勇者特科にいる【勇者候補】たちの家までは知らなかったな?)

 今代のこの国の【勇者候補】たちは、意外や意外、高位貴族が大変多い。
 特にエリザベートはこの国の宰相の娘。
 扇子を広げ、腰に手を当て、口元には赤い紅。
 さらにこの流行も吹き飛ばすような全身真紅のド派手なドレス……これはもう彼女にしか着こなせないと一目でわかる。
 戦場で戦う泥臭い彼女の姿しか知らないリズたちも、ちょっと呆気に取られた。
 おそらく最初から彼女のパーティーでの姿も知るロベルトとヘルベルトは、さして驚いている様子はないけれど。
 いや、よく見れば令嬢たちの目はロベルトとヘルベルトに集中している。

(なるほどなるほど、確かにね)

 ロベルトがエリザベートと再婚約した話は、勇者特科内の出来事。
 勇者特科に入った者は基本的に貴族の社交会からは、消えたものも同然。
 つまり、知られていないのだ。
 そうなるとロベルトは最古の貴族の血筋——ミュラー伯爵家の一人息子となる。
 エリザベートの話から、ミュラー伯爵家の権威と信頼度の高さは、王家のお墨付き。
 しかもこの容姿。
 穏やかで優しい紳士然とした立居振る舞いと、浮かべた柔らかな微笑み。
 ……まあ、これは気合い入りまくりのエリザベートの姿を「かわいいなぁ」「そしてかっこいいなぁ」「いや、やっぱり美しいかなぁ」と、つまり見惚れて惚気ている微笑みなんだが……。
 わかるのは勇者特科の者だけだろう。
 そしてヘルベルトだ。
 マルレーネと同じツィーエ侯爵家の次男。
 元々は兄や優秀な弟への劣等感も手伝って、勇者特科に入ったことをひどくやるせない気持ちで過ごしてきた彼だが、一皮剥けたあとは完全になにか吹っ切れたようなさっぱりした顔立ちになっている。
 つまり、まあ格好いいのだ。
 マルレーネに対しては相変わらず目を合わせられないほどドギマギしているのだが、本日のマルレーネはエリザベートの気合が入りまくった黄色いドレスにより、ヘルベルトが直視もままならないほどかわいらしい。
 マルレーネを直視できないヘタレ野郎ではあるものの、直視できないからこそ目を背けている間は完璧な生真面目堅物貴族の紳士然とした姿だ。
 しかもヘルベルトは元大剣使いとして身長も高く、今は体全体をバネのように使う闘士の訓練も行なっているため、一目で屈強とわかる体躯になっている。
 見回すと会場内でここまでデカいのはヘルベルトぐらい。

(……でもエリーの指示でタキシードをオーダーで仕立て直したから、めちゃくちゃ決まってるもんね。あーこれは逞しい騎士系が好きなご令嬢はときめくなー)

 わかるわかるー、とリズも頷く。
 なぜならリズもどっちかというとガッチリムキムキ系が好きなので。
 ヘルベルトは中身を知っているから、お断りだが。

(で……)

 反対方向を見れば、令息たちの視線はマルレーネとモナに釘づけである。
 それはそうだろう。
 四大侯爵家の一角、ユスト家の令嬢。
 しかもたった一人の女の子。
 いくら養女とはいえ、彼女の美貌はリズも目を見張った。
 ヘルベルトでなくても見惚れるのは無理もない。
 まあ、ヘルベルトはマルレーネの容姿だけでなく、努力家で庶民的なところも好ましく思っているようだが。