——この両親、経営向いてない。
その瞬間姉妹は頷き合った。
リズとアリアの前世の知識と魔力を使い、一年間で領地内を豊作に導き、他領へ出荷。
交易により借金は半減。
……まだ半減である。
さすがに毎年豊作続きでは他領だけでなく両親が王国に睨まれかねないので、リズは自らの前世の記憶を頼りに王都の学園に入学。
首席卒業して、魔法騎士団に入団してお金を稼ぎ、仕送りするという手に出た。
それがリズの八年間に起きた出来事である。
「ち、小さいうちからそんなにご苦労されてたなんて……!」
「いや、本当にね。……でもまあ、そういう両親だから好きなんだけどね。アリア……ボクの姉が側にいるから、さすがにもう借金増やしてないと思うし」
「必要なら、お母様に頼んでユスト家から援助いたしますか?」
「いらないいらない。そんなことしたら叔父が戻ってきかねないもの。うちは貧乏。まだまだ火の車。……じゃないとお人好しのうちの両親は叔父をまた甘やかしかねないよ」
「ま、まあ……」
せめてリズとアリアがもう少し大きくなれば、権利関係でも口出しできるようになるのだが。
どちらにしても家を継ぐのは長女の旦那。
つまりアリアの選んだ男。
シスコン気味なので「アリアに相応しい男かどうかは必ず確認するとして」、と前提はつくが、アリアなら変な男はきっと選ばないだろう。
……若干別な心配として、両親のようなお人好しぽやぽや夫婦にならないかが不安の種。
そこは姉の成長と姉が選んだ男を見定めてからだが。
「なるほど。じゃあ管理人さんのドレスとかはワタシがお小遣いから出しますね!」
「え、い、いやいやいらないって。学園在学中の制服残ってるから、[修繕]魔法でそれっぽく直せば……」
あとなにより、リズはドレスが苦手だ。
中身が前世から男勝りなので、ヒラヒラしたスカートが鬱陶しくて仕方ない。
魔導系補助効果のあるローブなら、防御力や魔法防御、魔力量捜査補助などの実用的な観点から、好んで身につけてはいたけれど。
その下にズボンや厚手のタイツを履いているので、それらを着用できないドレスやワンピースは本当に苦手だった。
……わかりやすくいうと「なんであんな防御力の低いものを身につけなきゃいけないの」という、なんとも斜め下の方のアレだ。
脳筋がすぎる。
「学園の制服!? お待ちなさい! 聞き捨てなりませんわよ!」
「わ、わー……」
エリザベート、参戦。
これは勝ち目がなくなった。
なぜなら相手は公爵家のお嬢様だから。
「ヘルベルト、ロベルト! こうなったらわたくしたちが全員でこの喧嘩を勝利に導きますわよ!」
「君は本当になんでもかんでも……いや、まあいい。私も負けるのは嫌いだ」
「うんうん、頑張ろうね、エリー」
「ええ! たとえセジル殿下であろうとも、わたくしと管理人さんにこんな形で喧嘩を打ったことを後悔させて差し上げますわ! おーーーっほっほっほ!」
「…………」
すわっ、と脳内にそのゼジルの婚約者、ラステラの顔が浮かんだが、エリザベートが怒りそうなので呑み込んだ。
つい一言余計なことを言ってしまうリズも、これは言ったら自分の首を絞めると事前にわかったので。
***
それからは不慣れで怒涛の日々。
時間もないからとなかなかの無茶振りもあった。
ダンスやマナー、所作は[複写]である程度ごまかすとしても、履き慣れないヒールの靴は要練習。
そんなこんなを乗り越えて、ついに『雷の季節』『烈火の週』『花弁の日』はやって来た。
『勇者特科』の施設がある場所から徒歩五分。
『勇者特科』施設の五倍はある広大な敷地に、本校舎と運動施設、さらに多目的ホールが二つもある。
多目的ホールは主に貴族の夜会会場として用いられ、特に入学と卒業の際は並んだ二つの建物の間の渡り廊下も開放して、両方の建物を使った大々的なパーティーが行われた。
もちろんそれほどの規模だ、パーティーに参加するのは生徒だけではない。
生徒の親や、城の重役が将来性の高い生徒をスカウトに来たりしている。
まさしく社交の場、というわけだ。
「おい、聞いたか? 今日はあの『勇者特科』の生徒も来るらしいぞ」
「らしいな……ゼジル殿下が読んだんだろ? ったく、余計なことをしてくれるよな」
「勇者なんて時代遅れなもん、とっととなくしゃあいいのに」
「そうもいかんのだろう。『勇者特科』の学園併設は他国との決まりごとというじゃないか」
「『再び世界に脅威が訪れた時に、素早く勇者が対応できるように勇者特科を必ず併設し、勇者候補の育成、および勇者覚醒を目指す』……だったか? 今考えると馬鹿馬鹿しいよな」
そんなヒソヒソ話が耳に入る。
実に耳障りと思うが、それが現代の『勇者特科』への認識。
仕方がない。
機関が構築されたのは、魔王封印がなされてから数年後という。
当時はまだ魔王の脅威が色濃く残っていた。
だからこそ、縋る対象が欲しかったのだろう。
それを悪しきこととは思わない。
ただ、それが長く続きすぎて腐ってしまっただけ。



