「前にゴブリン退治でマルレーネが戦ってるところも見てたけど、割と撃ち漏らしが多いんだよね」
「うっ!」
「的に当てるのは……まあ、できるんだけど、そこじゃないっていうか……一撃で沈められないっていうか。五回に三回は急所外すよね」
「う……」
「そしてそれは大体『的』が動いてる時だよね」
「ううっ!」
「うんうん、自覚があってなにより」
「…………」
がっくりと派手に項垂れるマルレーネ。
そう、彼女——マルレーネは弓士としての腕は決して悪くない。
ただ、動かない的でばかり練習していたため、動く的は失敗率が非常に高いだけで。
本人もそのことに自覚があるらしいので、改善は早そうだ。
「[スターバルーン]!」
キラキラと輝く大型、中型、小型の星が周囲を囲む。
ポカンとするマルレーネ。
わかる。わかるぞ。なんだこの魔法は、と言いたいんだろう。
そうだろう、そうだろう。
用途がわからないだろう。
「撹乱用の魔法だよ」
「撹乱用……」
「氷属性の魔法でね、周囲の光を利用してめちゃくちゃ輝く。ふわふわ動くし眩しいし、魔法は跳ね返すし、この見た目で結構凶悪なんだよね」
「ま、魔法跳ね返すんですか!?」
「跳ね返すし、当たりどころが悪いと——」
えい、と魔力弾を適当なところへ放つと、小さな魔力弾は跳ね返りを繰り返してリズとマルレーネの周りを一周した。
それでも消えることなく二周、三周する。
そのスピードはどんどん上がっていく。
リズはそれがこちらに向かって飛んできた瞬間、別の魔力弾を撃ってそれを破裂させる。
「っ」
「ゆっくりとはいえ、一応は動く的だ。矢は自動生成する矢筒を置いておくから、好きなだけ練習するといい。十個以上連続で当てたら、動きが速くなっていくようにしておいたから頑張ってね」
「え、ええっ!?」
——こうして始まった、新『勇者特科』担任教師による【勇者候補】たちへの授業。
集中力のある午前中は座学。
昼食後の眠くなる午後は実技。
瞬く間に二ヶ月が過ぎる。
『流水の季節』『大地の週』『流水の日』……。
「今日から一ヶ月、マルレーネの実家の孤児院近くで野宿するよー」
「野宿!?」
生徒全員の驚きの声が食堂に響く。
リズとしてはそんなに驚かれるようなことを言った覚えはない。
ロベルトには転移魔法も収納魔法も教えたし、モナやフリードリヒにも基礎は教えた。
全員の実力は著しく底上げされている。
足りないのは常識だ。
そして、この世界への理解。
彼らには『世界』を知ってもらいたい。
「本当は世界を回る旅とかしてきてもらいたいんだけど、国境とかあるし無理だからさー」
「し、しかし、そんなこと学園が許可してくださいますの?」
「え、そりゃしてくれないんじゃない? だからボクという寮管理人が同行することで『簡易寮』と言う名のテントを設置する」
「……えぇ……」
ふふん、と胸を張るリズ。
寮管理人がそこにいれば、そこが寮といっても過言ではなかろう。
ついでに言うとリズは正式に『勇者特科』の担当教師だ。
文句は言わせない。
「キミたちは実力こそ、そこそこついてきたけど実戦経験と常識、それから外の世界での経験が圧倒的に足りない! それを補うにはやはり、外の世界で生活するのが一番だ。特に野営は、自然の厳しさや命のありがたみを理解するのに避けて通れないだろう」
「にゃーん!」
肩に乗ってくるベルが鳴く。
ここからという時に、来客の報せが門のペッシから届いたようだ。
しかもこのベルの顔……間違いない、奴だ。
「チッ、性懲りもなくまた来たのか」
「? 誰かきたのかね?」
「バカ王子だよ」
あ……ああ……。
という力ないドン引きの声がヘルベルトから漏れる。
バカ王子、こと第三王子ゼジル。
そろそろあのバカは、リズがこの国どころか世界にとっても驚異的な存在だと理解すべきではないだろうか?
というか、国王はあのバカ王子にそれを教えてくれやしないだろうか?
実はエリザベートの父である宰相から、国王陛下からの言伝として「何度も君に手を出さないよう伝えているが、言うことを聞かない。万が一本当に手に負えないと思ったら、それなりに手ひどくしてくれて構わない」というお許しをもらっていたりする。
それはもちろん『殺害』までは入らない。
そもそもリズは『死者蘇生の奇跡』を使える。
死後、一日以内ならば蘇生を行えるこの世界でもっとも『奇跡』に近い魔法だ。
なので、リズに絡んで死んだとしても——リズがうっかり殺してしまっても——ゼジルは死ぬことはないだろう。
死んだとしてもその瞬間に蘇生する。
それもまた、リズが【賢者】ゆえ。
「遅い!」
門の前でプギプギ言うペッシと、ヴーと唸るスノウ。
二匹の門番に腕を組み、律儀にリズが来るのを待っていたゼジルは叫ぶ。
ついでにその後ろには、ゼジルの婚約者ラステラがいる。
睨みつけるその顔に「なんかしたっけ?」と首を傾げた。



