転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

 
「取ったどーーーー!」
「おおー! やったぁべさぁー!」
「管理人さん、おめでとうございます!」
「ふん、当然ですわ! 管理人さんが取れないはずありませんもの!」
「おめでとう! ございます!! 管理人さん!!」
「うむ、おめでとう管理人殿!」
「おめでとうございます」
「ホホーゥ!」

 わー、と勇者特科寮地下食堂が賑わう。
 アーファリーズ・エーヴェルイン、八歳。
 無事、教員試験に受かり、教員免許を取得いたしました。

「これで堂々とキミたちに色々教えてやれるねー」
「楽しみだんべ!」
「早速戦い方を教えてください!」
「お、みんなやる気だねー。じゃあ地下訓練場に行ってみようかー」

 モナとマルレーネがワクワクした様子で言うので、全員を地下訓練場へと転移させる。
 しかし、転移した途端ビッグボアによる牙での突き上げ。
 リズが瞬時に燃えかすにしなければやられていた。

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとお待ちになって! な、なんですのこれは!」
「こ、これはっ!」

 エリザベートとヘルベルトがすぐに武器を構えるが、襲いかかってきた魔物は到達する前にリズの魔法壁にぶつかって燃え始める。
 それでもうじゃうじゃと蠢く魔物たち。
 主に——ゴブリンだ。
 しかもすでに魔物同士が殺し合い、お互いを餌として喰らいあっている。
 地獄絵図に勇者候補たちの顔から色が消えていく。

「あれ、キミたち昨日狩りに来てない?」
「狩りましたわよ! というか、ここは訓練場のどの辺りですの!?」
「真ん中? くらいだけど……あ、もしかしてこの辺までまだ到達してなかった? ほーん、それじゃあ増えすぎて殺し合いが始まってたのかもね。最近ボア肉ばかりで飽きてたし、ゴブリンは元々食べられないし、衛生的にもよろしくないから一度全部討伐しておこうか。邪魔だし」
「え?」

 すぅ、と腕を挙げる。
 この訓練場の広さに魔法陣を走らせ、その瞬間始末する個体数およそ二千の場所を把握。
 魔法陣が拡がった瞬間は、魔法使いであるロベルトにしかわからなかった。
 他の者たちは「なんか今光ったな?」程度の認識だろう。

「[的炎発雷《ロック・フレイン・サンドロス》]!」

 地響き。光。轟音。
 目の前にいたゴブリンとボアの群れ、それらの死体、そして共食いした痕跡——すべてが一拍の間で消し飛んだ。

「……」
「ロベルト!? どうしましたの!?」

 ロベルトは腰を抜かした。
 思った以上にちゃんと勉強していたらしい。
 そう、リズはただ強力な攻撃魔法を発動したわけではなかった。
 それに気づき、理解して腰を抜かしたのだ。

「し、信じられない……」
「ふふーん、ロベルトはちゃんと分析できてるんだね。いい子いい子。そういう子は育つよー」
「ど、どういうことだんべさ?」
「モナ、君、今のわからなかったのか!?」

 顔を青くしながらモナを見上げるロベルト。
 魔法を嗜む者でも、「今のをすべて理解するのはそれなりの上位者だよ」と告げるとモナが顔を赤くして俯く。

「なにをしたんだね?」

 ヘルベルトが訝しげに顔を傾ける。
 それにリズは微笑んでみせた。

「今ボクが使ったのは火属性と雷属性魔法なんだけどね、それを使うとこの密封された地下空間では……あ、いや、ここはロベルトに説明してもらおうかな!」
「えっ!」
「ボクが使った魔法、全部言えたら今の魔法を教えてあげよう。どう?」
「っ! ……わ、わかりました! やります!」

 積極的で素晴らしい。
 手を叩いて「がんばれー」と応援しつつ、立ち上がったロベルトの解説を待つ。
 こほん、とひとつ咳き込みして、ロベルトは人差し指を立てる。

「まず一つ目はさっきの超広範囲超高威力の攻撃魔法ですよね。火属性と雷属性、そした地属性」
「お、正解!」
「地属性も使われてたんだべさ!?」

 驚くモナ。
 やはり本当にわかってなかった。
 モナの魔法が治癒系特化なので、攻撃魔法に関してわからなかったのは無理はないのかもしれないが。

「広範囲の魔物を一瞬で把握したんだよ。空間系の魔法だから、風属性も混ざっていますよね」
「うん、そう。他には?」
「広範囲を把握した魔法は……多分[探索]と[マーキング]の魔法のかけ合わせ。さらにそこへあの攻撃魔法を紐づけして、魔法を重ねた」
「うんうん」

 やはりロベルトはなかなか見どころがある。
 腕を組んで頷くリズに、一つ安堵した顔をするロベルト。

「……正直、僕の腕では三つの属性をかけ合わせた混合魔法がせいいっぱい。四つ以上は魔法騎士団団長クラスですよね」
「そうなの? 知らない。どっちにしろこの世界にボクより魔法に秀でてる人間いないから」
「え、ええ……」

 この国に限らず、世界の国々の中で称号【賢者】を持つ者は——アーファリーズ・エーヴェルイン、ただ一人。
 しかも彼女がその称号を()()()()()のは六つの歳の頃。
 魔法を嗜む者ならば、その真の意味に気がついた時、間違いなく畏怖を覚えるだろう。
 ロベルト・ミュラーはその日、その時、ようやく理解した。

「……ぼ、僕は……」
「ロベルト」
「っ」
「キミはボクとは違う。だから続きを聞かせて。まだ途中だろう?」
「……、……はい」