転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

 
 ——『花弁の季節』、『疾風の日』。
 あっという間にその年末になった。
 もうそろそろ教員免許試験の受付が始まるので、王立学園事務局にで向いたリズ。

「受けつけられません」
「またかよ。教員免許試験に年齢制限はないだろう!」
「普段の行いに問題があると判断されたのです。資料によると勇者特科の男子寮、女子寮の寮則をことごとく変更したとか」
「不要なものをなくしただけだ。寮管理人の自由だろう! 仕事をしただけにすぎない!」
「寮則の変更は、事前に学園に通達と申請が必要です」
「はあ? そんな決まりは管理人マニュアルには載っていなかったぞ!」
「そうですか? 載っていたはずですが。ともかく、わたくしの方では受け付けられません」

 イラァ、と睨みつけるが、この受付嬢も正直うんざりしているんだろう。
 リズに嫌がらせを命じているのは彼女の上の上の上の上ぐらい上のところ。
 なんならこの事務局長も、その辺りからの指示を盾に嫌がらせを楽しんでいる。
 そんな上と、リズに挟まれて「面倒くさいなー」「うざいなー」と思っているに違いない。

「ふ、ふふふふ……ふふふふふふふ」
「っ?」
「責任者を呼べ」
「は、はい」

 だが、そんなこと予想済みである。
 どうせこうなると思っていた。
 上司の男性職員が現れる。
 年始にリズへ『勇者特科』の寮管理人を押しつけた、あの男だ。
 嫌そうな顔を隠しもせずに近づいてくる。

「なんですか? まーぁたあなたですか。まったく、年末年始は忙しいのですがねぇ〜。今度はなんです?」
「それが、教員免許試験を受けたい、と」
「ハァーーーーーーー? ふぁ、ふあぁははははは、ははははははっ! し、試験? 教員免許試験んん? はははははっ! あはははははははっ!」
「…………」

 すげぇ、笑う。
 あまりにも笑うのでますますイラァとする。

「はぁ、はぁ、失礼。あまりにもバカバカしくて」
「ほーーーう? なにがバカバカしい?」
「当たり前でしょう? あなた今いくつですか?」
「『烈火の季節・烈火の週・雷の日』だけど?」
「あー、じゃあまだ八歳から成長していないんですねぇー、精神も体も」
「…………」

 びき、びき、びき、と青筋が立つのを、沈黙を貫くことで堪える。
 見下したような——いや、事実見下しているのだろう、甲高い声で笑う。
 そう笑っていられるのも、今のうちだ。

「ボクは! 教員免許試験を受けたいから、願書をちょうだいって言ってるだけだけど?」
「だぁーかぁーらぁー、君みたいな子どもが人に教えられるわけないでしょーーーぉ? 教師っていうのは知識だけじゃなく、その子の人生をより実り多いものにするために、教え導く者ですよぉ〜? 君みたいな八年しか生きてない子どもが、なぁにを教えられるって言うんですかぁ?」
「っ……」

 ぶっ飛ばしてやろうか。
 この建物ごと。
 と、思うが、それはさすがにできない。
 吹っ飛ばせば願書がもらえなくなる。

「はははは! あはははは! ほんっともー、ばっかですねーぇ! あははははは!」

 また笑う。
 ふっ、とリズも笑う。
 リズの後ろに、三人の男女が歩み寄ってくる。

「は……」

 笑っていた男性職員の笑い顔が、その三人を見た瞬間ヒクヒクと痙攣し始めた。
 受付嬢は驚いて腰を抜かし、椅子に座り直している。

「あらあらあらあら、うちの可愛いマルレーネちゃんの信頼する管理人さんがいよいよ担当教師になってくださるっていうから、とってもとっても楽しみにしていたのだけれどぉ〜」
「いやいや、まさにまさに! 娘が一度諦めた婚約者……ひいては我がケイアー家とミュラー家を繋ぐきっかけを与えてくれた管理人殿に娘と婿殿が指南いただけると思うと、今からワクワクしておったのに……」
「ホッホッホ……本当に本当に。ロベルトはエリザベート嬢との婚約破棄のあと、ずっと落ち込んでおりましてねぇ……いやぁ、二人の誤解が解けて、再婚約したのは実にめでたい! 本当によかったと安堵しておりましたよ。しかも寮則を変えてくださったことで、いつでも我らが会いにいけるようになって、ねえ? ユスト夫人」
「そぉなんですよおおぉん! マルレーネちゃんに毎日会いにいけるようになったんですの〜!」

 きゃっきゃっと笑う淑女——四侯爵家のユスト夫人。
 その横の大柄な紳士——この国の宰相、ケイアー公爵。
 そして左端にいる紳士——最古の四侯爵家のミュラー侯爵。
 男性職員の顎が外れるのでは、というくらいに開きっぱなしになっている。
 まあ、無理もない。
 四侯爵家の当主と、この国の宰相、そして同じく四侯爵家の女主人。
 そんな本来ならば、事前に準備してお迎えしなければならない大貴族が揃って現れたのだ。
 カタカタと小刻みに震えながら、一歩、二歩と後退る。