「ぷぎ、ぷぎぃ!」
「ひい! な、なんで魔物が門を守っているんだ!」
「それはボクの使い魔、ペッシ。寮管理人の仕事を手伝ってくれてるんだよ。……キミがボクを推薦してくれたんだろう? ちゃんと仕事はしてるから、視察はもう十分なんじゃない?」
「っ!」
もちろん嫌味である。
だいたい視察と言いつつ、その目的がホーホゥの回収と明言している時点でお粗末がすぎるのだ。
こんなアホには早々にお引き取り願おう。
ボアの相手をしている勇者候補たちも、なかなかにギリギリっぽいし。
そう思っていたが、相手は腐っても王子。
「いいや、まだだ! 門を開けろ! これは命令だ!」
「視察と言ったな? 正式な視察ならば管理人たるこのボクに事前の連絡くらいすべきではないのか?」
「抜き打ちだ抜き打ち! 貴様がまともな管理を行なっているとは思えんからなぁ! 案の定魔物を使い魔にして門を守らせるなど前代未聞! さっさとこの汚らわしい魔物を退けて門を開け!」
「…………」
力押しでこられても面倒なことにしかならないが、よもやこれほど無策とは。
無意識に頭を片手で抱えてしまう。
(けど)
考えようによっては“許可制”の意味をこのアホに正しく理解してもらえる、よい機会かもしれない。
そう考え直して、ペッシを呼び寄せる。
管理人権限で門を開き、ゼジル王子たちを招き入れた。
「ふん、ようやく観念したか。最初から素直にいうことを聞いておけばいいものを」
「ホーホゥは自分で迎えにいくんでしょ?」
「はあー? 当然だろう? こうしてこんなところまで足を運んでやったのだぞ?」
「じゃあ案内するから——頑張って」
「え? 頑張っ……?」
転移陣をゼジルたちの足下に展開させる。
引き攣った表情に、リズはにっこりと微笑みかけた。
今更気づいても遅い。
護衛の者たちもまとめて地下の広大な訓練施設に吹っ飛ばす。
「さて、どうなるかな?」
門を閉め、ペッシの頭を撫でてから扉の広場に戻り、また画面を取り出して中を眺めてみる。
ちょうどロベルトとエリザベートのところへ、あのアホ……ではなくたけど王子が落っこちていた。
突然の出来事に「なんだここは!」「どうなってる!」「あ、ホーホゥ!」と、わかりやすい反応を繰り返し、ロベルトの方にいたホーホゥに飛びかかろうとする。
それを避けるロベルト。
まあ、普通に考えて男に飛びかかってこられたら避けるに決まっている。
ついでに言うと、ロベルトたちはそれどころではない。
なにしろビッグボアが三体に増えている。
突進してくるビッグボアの一体が、ゼジルの登場と飛びかかられて混乱しているロベルトに向かう。
エリザベートはあの細剣で、ロベルトを守ろうとしたのだろう——凄まじい高速突きの剣技。
魔力を用いた[身体強化]と[魔力付与]の【技スキル】だ。
(ほう!)
なかなかの威力。
ビッグボアの頭が半分抉れた。
だが——。
『エリザベート!!』
ロベルトが叫ぶ。
他の二体が標的をエリザベートに絞った。
突進は通常のボアの倍以上。
いくら素早さが自慢のエリザベートでも、あの体躯で、しかもロベルトたちを守ろうと“標的”になっている状態ではあまり離れるわけにはいかない。
掠っただけでも危険だ。
『くっ! きゃ!』
『エリーーー!』
しかもその隙間から通常サイズのボアが突進してきた。
それをかろうじて避けたが、エリザベートは尻餅をついてしまう。
迫るのはビッグボアの突進。
ロベルトがエリザベートを庇うように抱き締める。
『ロベルト! 逃げて!』
『嫌だ! 死ぬなら君と死ぬ!』
『ホ、ホホゥー!!』
『わー! わー! ふ、ふざけるな! 誰か! 誰かいないのか!? 誰か私を助けろ、守れえぇ! 私は第三王子だぞ!?』
ロベルトの肩から羽ばたくホーホゥ。
彼女を守ろうとするロベルトの男気の横で、ゼジルの情けない姿。
『ごめん、エリー……でも僕は、最期まで君を……』
『っ……』
目を閉じる二人。
言葉など最低限でいい。
鼓動も、吐息も、体温も、空気も、なにもかもが伝えてくれる。
相手の想いも、願いも、祈りも。
なにもかも、すべて。
「青雷落雨!」
その瞬間、訓練施設の天井から降り注いだ青い雷がボアをすべて撃ち抜いた。
すべてだ。
転移魔法で現れたリズが見たのは、抱き合ったままの二人を守ろうと翼を広げるホーホゥ。
にこり、とつい微笑んでしまう。
「ロベルト、どうやらもうひとり、キミと一緒に死ぬ覚悟のある子がいるみたいだよ」
「「え?」」
顔を上げるエリザベートとロベルト。
そして、手前で二人を守ろうとするホーホゥに気がついてまた涙が溢れた。
「っ……」
「契約してあげなよ。そしてもっと強くおなり。キミならボクと同じくらい強くなれるかもよ」
「か、管理人さん……。これは、管理人さんが?」
「言っただろう? ボクはこの国始まって以来の魔法の天才! 努力で『賢者』の称号を取得した、アーファリーズ・エーヴェルイン」
「にゃあーん」
「そしてボクの使い魔ベル」
「にゃー」
自分も紹介して、と頬に擦り寄る黒猫を撫でる。
満足げにゴロゴロと喉を鳴らすベルに、ふふっとなった。
「ホ、ホホゥー」
「ほら、ホーホゥもキミと契約したいってさ」
「……いいの?」
「ホホーゥ!」
純白のホーホゥが翼を天に向けて掲げる。
ロベルトはエリザベートの肩を抱き締めたまま、手のひらを差し出す。
「名を与える、汝、今をもって『エルシー』と名乗れ。ロベルト・ミュラーの使い魔となり、我が力の一片を貸し与えよう。……ありがとう、エルシー。よろしくね」
『ホ、ホーウ! ヨロシクー!』
「も、もう喋った!?」
「そう。だからホーホゥ……特に白いホーホゥは希少種として許可、またはホーホゥ自身の同意が必要になるんだよ。とても頭がいいし、高い魔力を持っている。その分扱いづらい子だけど……キミなら大丈夫だろう」
すりすり、とホーホゥ改めエルシーがロベルトに擦り寄る。
その頭を撫でて、ふと、ロベルトは自分が抱き締めたままのエリザベートの存在を思い出す。
「「あっ」」
顔を見合わせた途端、真っ赤になって離れる二人。
フッ、と思わず悟り顔になるリズ。
「ちゃんと話し合っておきなよ。……さ、今日の探索は終わり! ……ゼジル殿下〜、ここ閉めるんで帰ってくださ〜い」
「さ、さっさと私を城へ戻っ——」
ぱちん、と指を鳴らしてゼジルとその護衛たちを勇者特化施設門の前へ転移させる。
あとは勝手に帰るだろう。
(がんばれエリー、ロベルト)
若い二人を応援しながら、倒したボアを全部己の空間倉庫に転移させるリズ。
ビッグボアとミスリルボアの牙は、大変高く売れるのだ。



