「ふむ」
残っている青い扉と黄色い扉。
まず青い扉は近接戦闘、肉弾戦などで戦うタイプの者を鍛えるためのトレーニングルームだった。
リズにはまったくどう使うのかわからない。
黄色い扉を開けてみる。
こちらには超巨大な青白い玉が浮いていた。
「ほうほう」
これはわかる。
魔法を扱う者なら必ず使うものだ。
「ふむふむ」
そしてあの大部屋。
黒の扉はなんにもない空き部屋だったが、おそらくあの空き部屋は“染まる”部屋なのだろう。
そこに住む勇者候補たちが、自由に使う、自由に染められる部屋。
「ここを作った者はなかなか性格が悪い」
扉の並ぶ、転移陣広場に戻る。
手のひらを天井に向けて半透明な画面を生み出す。
『きゃーーーー!』
映し出された映像に、ベルが目を丸くする。
一生懸命逃げ惑うのはモナ。
だが、回復役のモナが突進するボアから逃れられるはずはない。
彼女を背負って走っている者がいる。
フリードリヒだ。
『やややややヤバいヤバいヤバい! ヤバすぎるよー! ヘルベルトさーーーん!』
『語彙を失うな! 報告は手短にわかりやすく詳細に!』
『矛盾がひどい!』
『なんかでっかいボア牙をピカピカさせて追いかけてくるんですだーー!』
フリードリヒに背負われながらモナが叫ぶ。
身体強化で駆け回るフリードリヒは、モナを背負っているせいで応戦ができないのだろう。
ヘルベルトが標準サイズのボアを、突進を避けつつ倒していく。
その後ろで超巨大なミスリルボアに追い回されているモナとフリードリヒ。
他の三人は、また別なところにいる。
マルレーネはやや離れたところでヘルベルトの撃ち漏らしを射ており、エリザベートとロベルトが組んで少し大きめのグレードボアを押さえ込んでいた。
グレードボアがヘルベルトたちのところへ行けば、数を押さえ込んでいるヘルベルトとマルレーネはひとたまりもない。
同じくミスリルボアは群れのボス的存在。
どちらか片方に行けば危険だ。
しかし、エリザベートの細剣ではグレードボアを仕留めきれない。
彼女の華麗な身のこなしで突進や牙を避けているが、ロベルトの魔法では決定打に欠ける。
グレードボアとミスリルボアは、フリードリヒの槍でひと突きにするか、ヘルベルトの大剣で切り裂くかでなければ倒せなさそうだ。
(ロベルトが高火力魔法を使えればいいんだけど、持ってないのな? もしくは実戦慣れしてなくて、魔法陣構築に焦ってる?)
首を傾げる。
そして、ふとロベルトの肩にあのホーホゥが乗ったままなのに気がついて若干血の気が引く音を感じるリズ。
「にゃー」
「だ、大丈夫。最悪ボクが始末して……ん?」
外から人の気配。
門の前を警護するウリボアのペッシが、ピギピギ叫んでいる。
使い魔の様子に気づいて、リズは嫌な予感を覚えつつ門の前に転移した。
「げっ!」
「げっ、とはなんだ、げっとは! この国の第三王子である私が視察に来てやったのだぞ。もっと喜べ!」
「っ……」
三日ほどで回復したあのホーホゥは、ロベルトにベッタリで離れない。
その様子を見てロベルトが使い魔を得る覚悟ができたなら、任せようと思っていた。
だが、最初にあのホーホゥをこの町に連れてきたのは良くも悪くもこの男……。
「ちゃんと許可取ったの?」
「…………」
腕を組んで笑っていたゼジル王子が、スーッと目を逸らす。
後ろの護衛たちもポーカーフェイスを保ったまま、そっと顔を背ける。
「そんなことよりさっさと門を開けろ!」
「いや、許可証を出しなよ。寮に入るのも勇者特科の校舎に入るのも面会も自由にはしたけど、あんたが会いにきたのはホーホゥでしょ? あのホーホゥなら勇者候補の一人にすっかり懐いちゃったから、その子が使い魔にしないようなら自然に帰すつもりなんだけど」
「な、なんだと! あのホーホゥは私の使い魔だぞ!」
「使い魔予定ね。……あれ、ボクキミに使い魔についてちゃんと勉強して許可を取っておくようにって言ったよね?」
「なんで王子たるこの私が、貴様のような極貧没落貴族の言うことを聞かねばならない? お前は私に命令される立場だぞ!」
「あのねぇ……何度も言い返してるだろう? 王族には責務がある。その責務も果たさないで義務ばかり家臣や民に押しつけるんじゃないよ。キミが王族の責務を果たしてるならボクも王族を尊重して命令を聞いてやらなくもないんだからさー」
「きっ、貴様っ! 不敬だぞ!」
んべ、と舌を出して「知るか」と悪態をつく。
リズはなにも間違ったことは言っていない。
王族とは責務を果たして初めて『権威』というものを得るのだ。
その権威を正しく用いて初めて“尊敬”される。
誰よりも重いその責務を果たさずに、権威ばかり振りかざし、しかもその使い方が正しくない。
そんな者を、到底尊敬できるはずもない。
不敬という言葉は、その責務を果たした者を敬わない意味で使われるべき言葉。
私情ばかり口にする者をどうして尊敬できよう?
誰も彼にそれを教えないのだろうか?
それとも教わった上でこのザマなのだろうか?
だとしたらいっそ哀れだと思う。



