一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】

「やれやれ。思いのほか、焼き上がりに時間がかかってしまったな。玲奈が、気に入ってくれるといいんだけど」
　
　ハミングしながら入ってきた僕を見つけるなり、専用コンシェルジュが駆け寄ってきた。
『君をひきとめたが、帰ってしまった』と告げてきた。
　
　慌てて部屋に戻る。
　愛おしい人は消えていた。
　駆け寄ってベッドに触れても、彼女の体温すら残っていなかった。
　未練がましく目を彷徨わせると、僕の指輪がない。
　
　メモは、玲奈が自身のアクセサリーを置いていたベッドサイドのテーブルに残した。
　彼女のアクセサリーもなくなっている。
　メモを飛ばされないよう、僕の指輪を重しにしておいたのだから、アクセサリーに手をのばしたときに気づいたはずだ。
　事実、メモ用紙は丸めてベッドの上にあった。
　
　愚かな僕はそれでも『玲奈じゃない。彼女がチェックアウトした後に清掃で入ったルームメイドが盗んだのだろう』と信じ込もうとしていた。