一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】

 翌朝。 
 夕食も取らないまま貪りあったから、腹の虫の大合唱に起こされた。
 食料を買い込む前に彼女に出逢ってしまったから、パントリーにはなにもない。
 そうだ。
 玲奈に、僕のお気に入りのドイツパンを食べさせてあげよう。
 
 僕はそっとベッドから起き上がった。
 いそいそと身支度を終えて覗きこんだが、彼女はぐっすり寝入っている。

 昨日は我ながら激しかったから、玲奈は疲れてしまったのだろう。
 彼女の眠りを邪魔したくないから、キスするのを我慢する。
 起きたときに寂しがるといけないから、メモを書いておいた。
 
 
【Guten Morgen, meine Rena
(おはよう、僕の玲奈)
 
 Hast Du gut geschlafen?
(よく眠れたかい)
 
 Frühstück kaufen
(朝食を買ってくる)
 
 Ich bin bald zurück, also nehmen Sie sich bitte Zeit
(すぐに戻ってくるから、ゆっくりしておいで)
 
 ich liebe dich
(愛してるよ)
 
 Von deinem Nate
(君のネイトより)】

 ドイツ語だ。
 家族以外に、この僕がずっとドイツ語を使っているなんて、自分の浮かれぶりに恥ずかしくなる。
 いいや。
 玲奈は僕の恋人で、いずれ家族になる女性(ひと)だ。
 運命と出会えて、こんなにも嬉しいのだから仕方がない。
  
 ドアノブに手をかけて、ふと。
 メモは日本語のほうがいいのかもと思った。
 が、僕は日本語は、喋るのも読み書きもそれほど上手ではない。
 彼女はあれだけ流暢に話せるのだから、読めるだろうと思いなおした。