ごくり。
 私は自分の喉が唾液を送り込む音を他人事のように聞いた。
 私が縋るような目をしていたからか。

「持ちつ持たれつ、だね」

 ネイトが綺麗にウインクしてみせた。
 それが、答え。

「聞きたい?」

 ううう。
『事実を知ったら、僕から離れられなくなるよ?』
 ネイトが無言で告げている気がする。
 彼の目は感情制限が出来なくなると、色味が濃くなるのね。

 ……では、なくて。

 たとえば、ネイトが配信企業に資金の供給をしている?
 とか。

 あるいはクロスフォードが所有している建物に、必ずアンテナやサーバーを設置させてあげている。しかもタダで?
 とか。

 彼から逃げるつもりはないけど、聞いてはいけない気がする。

 数秒経っても私がリアクション出来ずにいたら、ネイトがちゅと唇にキスしてきた。
 これって『じゃあこの件はおしまい』ってことかな。
 うん。
 
 ……納得しかけた頭の中で反論が起こる。
 私にとってネイトは、会った瞬間からなくてはならない人になった。
 彼も私と生涯を歩みたいと切望してくれている。
 巨大じゃなくても企業を率いるには、綺麗事ではすまないだろう。
 彼の闇の部分を知っているべきなんじゃないだろうか。
 彼のことは、目をそらすべきにはいかない。


 思う側から、ネイトが楽しそうに言う。

「そんなことより、今回の責任。犯人にどうとってもらおうかな」

 鼻歌うたってますけど。
 なんだろう。
 ネイトは世界中の光を集めたような造形なのに、彼の周りには黒い雲が漂ってる気がする。

 オ金持チ、敵ニ回シチャダメ。 
 世界的企業同士ノ共生関係ナンテ、知リタクナイ。

 と、思ってしまう私は、まっとうだよね……。