あたしの左手の先から放たれたそのエネルギーの渦は空間をひん曲げ歪ませて進む。

 スネークドラゴンが放ったブレスをその渦に吸収し、そのまままっすぐ進んでその巨体を包み込んだ。

 閃光が渦巻き、そしてそれは一点に吸収されるように収縮し。

 そしてあたり一面に光を撒き散らした。

 歪んだ空間がクッションのように縮み、また膨らんで。

 それはほかの人にはそう感じられなかったかもしれないけど、衝撃波だけはその事実を表現していた。




 スネークドラゴンのその巨体が光に包まれ衝撃波を残して消滅したのを見届けて。

 あたしはそのままアーサーを抱いたまま地上まで降りた。

 でも。なんとか意識を保っていられたのはそこまでだった。

 そのまま。

 頭の芯につーっと冷たいものが走ったような気がして。

 暗転。目の前が暗くなり、記憶はそこで途切れた。








 ☆☆☆



「マリカ、気がついた?」

 そう優しい声がする。

 ゆっくりと目を開けると、そこには微笑んでこちらを覗き込むように見ているアーサーの顔があった。

 ああ。アーサー。大丈夫だった……。

「アーサーさま……。お身体、もう大丈夫、ですか……?」

「君のおかげだよマリカ。ありがとう。僕はもう大丈夫だよ。前より元気なくらいさ」

 そう言って彼があたしの頭を撫でる。

 あれ?

 あたしの頭、どこに乗ってる?

「魔獣スネークドラゴンが弾け飛んで、この場にはもう魔獣は居なくなった。作戦は終了だ」

 あ、フェリス様の声。

 にゃぁあたしどうなってる?

「にしても。まさかマリカがこんなかわいい猫になるなんて。ちょっと驚いたけど」

 そう言ってアーサー、あたしの背中ももふもふ撫でる。

 え?

 って、あたし、猫になってる??

 はう!

 おまけにここ、アーサーのお膝の上?

 にゃーーー!!



「あうあう、あたし! どうして!」

 あ、なんとか人語(ヒト語)は話せてる?

「君に抱えられ地上に降りた僕は、僕を下ろした途端に意識が途切れたように倒れた君をなんとか抱きかかえ、抱きしめたんだけどね。そうしたら君、僕の腕の中で弾けて。びっくりしたと思ってたら猫になってたんだよ。ほんとに驚いたけど」

 はう。

 そうか。

 魔力を使い果たして一番上に纏ってた茉莉花のマトリクスが維持できなくなった、とかかな?

 それならわかる。

 朝起きたらまずマリアンヌの身体にみーこのマトリクスを纏って王宮へ走り、その上に茉莉花のマトリクスをかぶせてた、から。

「ごめんなさいアーサーさま……」

「なんで謝るのさ。僕たちを助けてくれたのがマリカなんだから。もうほんと、感謝しても仕切れないよ?」

「そうだな。マリカ。いや、たぶん君、マリアンヌさまだよね? その猫の姿をみて納得した。猫になってしまったマリアンヌさま。王宮では噂になっていたから、さ」

 あうあうフェリスさま。

 そういえばフェリスさまにはマリアンヌとして会ってたっけ。

「ごめんなさいフェリスさま……。騙してて……」

「いや、いいんだよ。たぶんわたしの聖女が必要だって話を聞いて聖女をしてくれる気になってくれたんだろうから。まさか公爵令嬢に騎士団の聖女をやってくれとは頼めなかっただろうからね。気をきかせてくれたんだろう?」

 あうあう。

 まあそれもあるはあるけど。

「さすがに公爵家令嬢の立場で魔獣討伐は難しかったですし……。ごめんなさい……」

「もう、マリカは謝ってばっかり。こーんなかわいい天使なんだから君は」

 そう言ってアーサーはあたしを抱き上げ抱きしめて。頬擦り。


 あうあうあうあうあう。

 あーん、もう。心臓がもたないよう。