お家と王宮との行き帰りは猫になって走る。

 一応王宮入り口のパスはマリカの身分証をレティーナさまが作ってくださって。

 っていうか聖女見習いとして正式に登録してもらったのであたしマリカとしての身分証が出来たって事なんだけど。

 それってなんだかちょっと嬉しい。

 この世界にちゃんと自分の居場所が出来たってきがするの。

(マリアンヌとしての生活は不満でした?)

 そういう意味じゃないよ?

 マリアンヌとして生活するのも悪くはなかったけど、やっぱりね?

 あたしが茉莉花だっていう自意識が何処か行っちゃいそうな気もしてね。それがちょっとさみしかったのもあるかも。

 ちゃんと身分証が出来た事で、マリカ・ホンジョーがこの世界で生きてて良いって、暮らしてて良いって。地に足をつけて生活して良いって。そんな保証をもらった気がするの。

 それってやっぱりすごく嬉しかったんだ。

(そうですね。わたくしもちゃんと表に出られるようになって、やっぱり生きてるって素敵。生きてるって幸せ。そんな生の実感が持てましたしね。なんとなく死んじゃってるみたいな意識になっちゃってましたから)

 嬉しかったよね表に出られて。

(ええ。もうほんとすっごく。嬉しかった、ですわ)

 あたしも、ほんと嬉しいよ。


 お家ではちゃんと今はマリアンヌになってる。

 ほんとのマリアンヌ。お母様と普通に接しているマリアンヌを見てるだけで、あたしもほんわかしあわせな気分に浸れるんだ。

 ほんとだよ?


 でも。


 お母様にはちゃんと話して行った方が、いい?

(いえ……。まだそこまでの勇気はありません……。いちおう、何日か泊まり込みで聖女の修行をするからって、そう話すつもりですわ……)

 そっか。

 そうだよね。魔獣討伐だなんて言ったら卒倒させちゃうかもだよね。

(ええ。流石に心配をかけすぎるのもどうかと思って……)

 だよね。

 あたしたちは大丈夫、そうは思ってるけど、それを信じてもらうのは難しいよね。

(はい。悲しい顔をさせるのはもう嫌ですし……)

 うん。

 なんでも正直に話すのが良いこととは限らないしね。話さないっていうのもありだよね。



 レイスの中でそうあたしとマリアンヌが話している間、猫のみーこはひたすら走る。

 もう本能に任せて。

 肉球が軽やかに地面を蹴って。

 風を切り、壁を蹴る。

 屋根を跳び、そして。

 弾丸のように跳び回り、走る。

 あは。すっごく楽しい。

 空には月。まだすこしかけているその月から、あたしは力をもらっているような気がした。