まっさらで汚れを知らないセーラー服。


想太はそれが羨ましいと言った。


たった1枚の布が、たったひとつのスカーフが、想太の中では、美しい夢幻になる。


手に入らない、雨夜の月になる。


静かに耳を澄ませば、想太の鼻をすする音が聞こえた。


まだわたしと変わらない小さな肩が、頼りなく揺れている。


優しくて、温かくて、笑顔が似合う想太が泣くのを、わたしは初めて見た。


あぁ、想太は。


想太は、本当はずっと“僕”じゃなくて、“私”って言いたかったんだ。


ぶかぶかの詰襟じゃなくて、赤いスカーフが結ばれた、セーラー服が着たかった。


想太の澄んだ瞳から零れ落ちた涙は、真新しい詰襟の黒に落ちて、そのまま弾けて消えてしまった。


だから、想太の涙を見た人間は、この世界のどこを探してもわたししかいない。