それから、季節は流れ、また冬が訪れた。

職員室前の掲示板に大学合格者の名前が掲示されているのを、毎日欠かさずチェックする。

金坂さんは……

地元私立大学に合格。

でも、きっとこれは滑り止め。

金坂さんは、地元の国立大学に行きたいって言ってた。

2月が終わり、3月に入った。

国立大学の発表が始まった。

私は、毎日、目を皿のようにして掲示板を眺める。

今月、弟の高校受験もあるのに、私の関心は金坂さんにしかなかった。

……あった!

金坂さんの名前。

地元国立大学の教育学部。

大丈夫。

金坂さんなら、絶対にいい先生になる。

嬉しくて涙がこぼれた。


その日、授業を終えて帰ろうとすると、校門の前に見覚えのある人影を見つけた。

「恵理奈ちゃん!」

「金坂さん……」

一緒に帰らなくなった後も、ずっと野球部の練習は眺めていた。

甲子園予選が終わって、金坂さんが部活を引退するまで。

報われないことは分かっていても、だからといって、嫌いになることはできない。

「恵理奈ちゃん、俺、決めたんだ」

えっ? 何を?

私は、よく分からなくて、首を傾げる。

「大学を卒業したら、恵理奈ちゃんを迎えに来る。ちゃんと先生になって、恵理奈ちゃんを支えられる男になる。だから、俺と付き合ってくれないか?」

それって……

「でも……」

金坂さんにそんなに迷惑をかけるわけには……

「恵理奈ちゃんには、迷惑をかけない。俺が恵理奈ちゃんに合わせる。だから、また一緒にいてもいいだろ?」

いいの?

だって、私には……

「ということで、送るよ」

金坂さんは、はなから私の話を聞くつもりがないように見える。

「あの……」

なんて言えばいいんだろう。

「俺が勝手に恵理奈ちゃんにつきまとうから、迷惑なら言って」

金坂さんは、一人で宣言をする。

迷惑……なわけない。

「何も言わないってことは、俺が送っても大丈夫ってことだろ?
 さ、帰ろ」

そう言って、金坂さんは、自転車を漕ぎ始めるから、私は慌ててそのあとを追った。

1年ぶりに二人で並んで自転車を走らせる。

また、金坂さんと一緒にいられる日が来るとは思わなかった。

金坂さんが言うほど、簡単じゃないかもしれない。

私には、たくさんの問題がありすぎる。

それでも……

今、ここにある幸せは、私も持ってていいの?


今夜は、眩しいほどに青白い月が輝いている。

星たちが霞んで見えないほどに。



いろんな事情を抱えた私は、昼の太陽にはなれないだろう。

それでも、金坂さんの優しさを受けて輝く、夕焼け雲や月のようになら、なれるかもしれない。

そうなれたら、いいな……

いつか……



─── Fin. ───



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