窓にかけていた手も上から覆い被されて、こちらを見られないようにカーテンも閉められる。
「明日の早朝、誰もいない時間に出て、始発で帰れば問題ないんじゃね。」
「そっ…それまでここにいんのか!?」

「スリリングな一夜をどうぞ。」 
ニヤリッと微笑む策士・健に、未茉はなすすべもなかった。


「さっ、病人のお前は着替えてベッドで休んでろ。」

「着替えなんかねーよ。」といいかける間に自分のジャージを棚から出して未茉に手渡す。
「綺麗に畳んであるし、柔軟剤のいい匂いがするなぁ。」
くんくんっと畳まれたジャージの匂いをかぎながら、その香りに酔いしれる。

部屋を見回すと二段ベッドに、二つの机が並べられて、クローゼットに小さな洗面所のあるが、わりと手狭で殺風景な寮の二人部屋だったが、とても男子寮とは思えぬ程、綺麗に片付いていた。

「和希や瑞希は棚ん中ぐっちゃぐっちゃだし、部屋は汗くせーし、大違いだ。健兄、自分で洗濯とか掃除やるの?」
「俺以外に誰がやんだよ。後ろ向いてるから早く着替えろ。」

「おう。」
お構い無しにもうすでに脱ぎ始めていた。
「暑いからティシャツだけでいいや。冷房強めてよ。」
「贅沢なやつだな。」
エアコンのスイッチをいれて健は冷蔵庫からペットボトルの水をだしてコップに注ぐ。

「熱上がってんのか。」
前髪をまくりあげおでこをだして、健は手で体温を計ると、
「ちょっと熱いか。ほら薬飲め。」
お水と薬袋を出し渡すと、
「さんきゅー」とよく見ずに、ぽいっと口の中にいれようとするので、

「ばっか!!お前ちゃんと個数と薬確認してから飲めよ!!」
「んあ?飲めば一緒だろ。」
「お前、いつか死ぬぞ。ったく。」
薬と処方せんを確認して、
「ほら、口開けろ。」と顎を掴んで薬の粒をいれると、目の前には健の顔があった。