「多分落ち着いて匠さんと二人で話ができるのはこのバスの中だけだと思ったんで、すみません。」
不謹慎だということは認識はあるらしいな。と分かると、わかった。と頷いた。


「警察と昨日試合の後で未茉ちゃんのお兄さんに会いました。」

「ああ…。俺も昨日会って少しだけど挨拶したよ。」
「未茉ちゃんにはきつい口調な気がしましたが、普段からあんな感じですか?」

「…いや、未茉にだけだ。昔から未茉にだけはあんな感じだ。」

「昔から…ですか?」
「ああ。」言っていいのか、いけないのか迷いながらもため息をつき、口を割った。


「昔っても、未茉がバスケ始める前までは颯希さんはめちゃくちゃ可愛がってたよ。」
「…バスケを始める前までですか?」
何かひっかかるような言い方だった。

「ああ。俺らにも優しかったし、嵐や未茉ともいっぱい遊んでくれたしな。ただ未茉がバスケを始めた途端、人が変わったよ。」

それはなんとなく想像がついたが口にはしなかった。

「“才能”に“サラブレッド”。まさに未茉は兄弟の中でその名に相応しく清二さんの血を一番に受け継いで生まれてきた。
たった半年もしないうちに未茉はクラブの中で年上も男も関係なく一番になった。兄の颯希さんをもごぼう抜きにして。」

「……」

「こんな言い方をしたら最低だけれども、颯希さんは未茉の足元にも及ばなかった。むしろ瑞希や和希の方が生まれ持ったものはあったかもしれない。あの二人も未茉には到底敵わない。

その事実が颯希さんのプライドを傷つけるのには充分すぎた。6才も年下で、バスケも未茉よりも8年も長くやっていたのに。」