…ダン……

「お前具合悪いんじゃねーのかよ!」

誰もいない体育館で一人シュートを打ってると、急に扉が開いて嵐がやってきた。

「なんだ、嵐か。」
「なんだじゃねーだろ!!電話もでねーし、お前んとこの監督に聞いたら熱だして部屋で寝込んでるって言うから行ってみたらいねーしよ。」
まさか、とは思ってきたら体育館にいたのだ。

「お前…、泣いたのか?」 

未茉の目は真っ赤に充血し、瞼も腫れていた。
「泣いてる暇なんかねーよ。」
目を合わさず鼻をすすって未茉はゴールだけをみてボールを打っていた。

何かを吹っ切ろうとして打ち込んでる姿は、長い付き合いだ。
分かっていた。

「…試合見に行かねーのか?負けてるぜ。」

しばらくの無言の後、未茉は意を決したように何か一点を見つめた後、嵐の方を見てゆっくり振り返った。


「必ずバスケで日本一になる。」

「…!」
「約束したもんな?」
にっと微笑む彼女から、幼い頃の二人の姿が蘇る。

“嵐、世界制服だぜ!”
“おう!!俺らの夢な!!”

自分の立場を自覚してくれたことも、待ち望んでた同じ場所にまた戻ってくれたことに嬉しくて、
「おう!!そうだよようやく分かっ…」
ガシッ!!と両肩を掴んで未茉の顔を見るも、

「未茉…?」

その目はいつも見てきた未茉の目じゃないような気がしたからだ。

「どう…」いいかけた時、慌ただしい足音がこっちへと近づいてきた。

「白石!!お前は目を離した隙に…ったく!!今空港出たからお義母さんあと少しで着くって!!帰り支度しな!」
神崎監督がおとといの騒ぎを報告すると、中国からとんぼ返りしてくれたママが、今成田から熱のある未茉を迎えに来てくれることになった。

「おう分かった!」
「おうじゃねぇだろ・・・おうじゃっ・・・ったく!早くしろよ。病人!」
監督はやれやれと足早に去ってく。