「さわんな!!!」
背後から駆け寄ってくる翔真の足音が聞こえてきて、未茉は振り返りもせずただ思わずそう叫んだ。
「頼む…触んな…」
声を詰まらせながら唇を噛み締めて申し訳なさそうに言われた翔真はこれ以上ない無力感に苛まれる。
「本当…アイツの言う通り……どんどん下手になって…あたし」
ぽつ…と、地面には空からも大きな涙のような雨粒が落ちてきた。
「そんなことない…」
着ていた自分のジャージの上着を脱いで未茉の頭から被せた。
「そんなことないよ…!!」
両肩にそっと触れて、何度も首を振って強く否定すると、未茉は勢いよく振り向いて
「あるよ!!!翔真のこと好きすぎてバスケに集中できないこともあった…!!」
「…」
「アイツの言ってることは全部事実なんだよ…」
か細い声で認めたくない事実に向き合わされたように悔しそうに言葉を投げると同時に雨足がどんどん強くなってく。
ざぁぁぁあ…と一気に泣き声も聞こえなくなるくらいの雨音に包まれ、二人の体に容赦なく刺すような雨が打ち付けてく。
「もう、あたしのことは忘れて翔真。」
「…無理だよ。」
「じゃ、あたしがお前のことを忘れる。」
涙なのか、雨なのか…分からない水滴が溢れて…
翔真の驚いた顔も滲んで消えてしまう。
打ち消されてしまう。何もかも。
この雨に突き刺されて。
「ごめん。翔真。本当にあたしがよえーんだ…」
「…」
「強くなりてぇの。もっと上手くなりてぇんだ…恋とか好きとかやってる場合じゃねぇんだマジ。」
被せてくれたジャージを脱ぎ、突っ返すように渡した。
「今まで本当にごめん。」
顔をあげて震える唇を噛み締めなから謝った。