さっきまでの死闘が嘘のような夕方だった。



女子のホテルの食事会場では、
「白石は?」の声が上がるも、その姿はなかった。
大浴場にも露天風呂にもゲーセンにもいなかった。
部屋にもいなくて、気になった石井が探してると、

「今はそっとしといて大丈夫。」

前原が首を振った。

チームメイトの一言には説得力があり、そこで探すのはやめたが、エースとはいえ一年である未茉にそこまでの責任を追わせてしまったことを、心苦しく思っていた。

(帰って今まで以上に練習しよう。白石を全国で活躍させることができるよう、今度は私達が一回りも二回りも成長しないとダメだ。)
今日の試合で愛知とあそこまで戦える一年の未茉を、東京で燻らせてはいけないと前原も痛感していた。



未茉は一人、スマホとにらめっこしていた。
健とキタローに“負けた。ごめん”が言えずに…。


「なんだここにいたんだ。」

ホテルの中庭のすみの大きな石に寄りかかり落ちてくる紅葉を握りながら、膝を抱えてうつ向いてる未茉をユリが見つけた。

「…おう。なんか用かよ。」
「敬語使え・・このバカ」
頭を軽く叩かれるも無反応だ。


「私、翔真をあんたなんかから譲って貰いたくないから。しかも付き合ってもないし、勘違いしないで。」
「こんな時まで翔真の話かよ…お前の脳ミソ翔真でできてんじゃねーの?」
「うん。そうかも。」
ニコっと笑って答えた。

だが、そんな冗談も通じない程、今の未茉は酷く落ち込んでいた。