「なんだ、泣いてんのか?お前」
「すすっすみません…」
「笑ってんのか、泣いてんのか全然わかんねぇな!それじゃぁよ!」
どんぐり頭の伸びきった前髪が邪魔で目がよく見えないので、そうだ!と突然閃いたように提案した。
「前髪切ってやろーか?」
「えっええ!!?」
「バスケでフェイクいれる時も表情みえた方がぜってぇいいよ。」
村越が持っていた裁縫箱からハサミを取り出すと、
「切っていいか?」
「あっはははっいこっこんな私の髪で良ければ…」
ジャキッ…!!
返事をする前からもうすでに横にハサミをいれて豪快な音を立てジャキジャキッと切ってく。
「お、いい感じ!!」
「ほっほんとですか…」
「おう!!これでお前が吃ってても、お前がどんな表情してっか分かるし、相手にも伝わると思うぜ?」
ニッとどや顔で言う未茉に村越は、ずっと重く締め切られていたカーテンを開けられると、きらきらと魔法にかけられたように視界が開けたように思えた。
…いつも喉に突っかかって、さっきも言葉にできない言葉がたくさんあって…でも相手の反応が怖くて言葉を口にすることも、目をみることもできなくて…
「あたしのために学校来るって決めたんだろ?」
「え…?あ…ははい…」
「あたしもお前みてぇに授業なんか受けずにそりゃバスケだけしてたいぜ?でもそれじゃ勝てねぇんだよ。」
前髪を微調整しながら切る未茉の真剣な顔と言葉に村越は耳を傾けていた。