「あ、結城のチャリ鍵つけっぱなしだからこれ乗ろうぜ!」
校舎を出て自転車置き場の前を通り、翔真の腕を引っ張った。
「でも人の…」
「大丈夫だろ。放課後までに返せばよっ。」
と、もうすでに跨いでいて、
「早く乗れよ。」

「いや・・だから未茉ちゃんが後ろでしょ。」
「どっちでも大丈夫だぜ。」
「俺は好きな子を乗せたいの。」
ひょいっと軽々と未茉を抱き上げて後ろに乗せて前に乗りこぎだす。

「どこ行こっか?!」
立って翔真の両肩に手をかけて、覗きこむ。
「制服だしなぁ…」
「あっ!ねぇ!あそこ行かない!?」
「わっあぶねぇ!」
急に体ごと引っ張られて方向転換くらう翔真はバランスを崩すも、
「あははっ!」
と未茉に笑われる。


「懐かしいなー!!ここ!!」
到着すると一気に丘の上に駆け上がる。最近あんまり来てなかったなぁ~と、空に向けて両手をぐーっと伸ばして空気を肺いっぱいに吸い込む。

「懐かしいね。夜とはまた違う見晴らし。」
夜は星空に目がいくが、昼間は町並みを一望できるその風景が広がる。
木々に囲まれている高台は日中の暑さを和らげてくれる。

「確か誕生日の日、翔真にシュシュ貰った時以来だな。ここにくんの。」
辿り着いたのは、以前二人で来た丘の上の広場だった。

「うん。」
翔真は芝生にバッグを置き、長い足を伸ばして座る。
少しだけだけどその視線が寂しそうに映った。